「命」ハクソー・リッジ U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
命
後半、泣けてきた。
戦争の最前線で、一心に命を繋ぎ続けた青年の話しで、夜通し仲間を救助し続けた信念に泣けてくる。
前半は帰還兵である父親が、強烈なアクセントを放ち続け、戦争の苛烈さを伝えてくれる。この役者さんに釘付になったのは今作が初めてだ。
中盤では彼の信念が、その苛烈な戦争の中では、むしろ無用なものだと否定される。
だが、彼は有罪を覚悟しながらも、その信念を曲げようとはしなかった。
後半は戦争の最前線だ。
彼は銃を持たず衛生兵として参戦する。
「誰も殺さない。仲間を救う。」
このシンプルな信念を忠実に体現していく。
戦争が休止する夜に、彼は単独で夜通し仲間を救出し続ける。
これはおそらく衛生兵の任務外の行為であり、罰せられるようなものだと思う。
だが彼は、ひたすらに命を繋いでいく。
もう1人、後1人
夜中に敵地で単独行動する恐怖はどんなものなのだろうか?
いるともいないとも分からない仲間をやみくもに探し、腐臭が漂う戦地を這いずりまわるのは、言葉にできない程の嫌悪感が付いてまわるのではないのか?
だが、それすら凌駕し、体を動かすものが「信念」彼はそれに従い、実行し続けた。
その彼を演じた主役も見事。
人の体は演技であんな風に震えられるものなのか?
自身が戦地を離れ、安全だと判断できた時の体の震え…無自覚のその震えを、明確な意思と目的をもって再現してみせてた。
…驚く。
監督も監督冥利に尽きるんじゃないかと思う。
この作品の優秀なとこは、その命を繋ぐという行為の正反対にある、命を奪う行為を鮮烈に描き続けたという事だと思う。
凄惨な描写があったからこその結果であろう。…戦禍の中にあった人たちや、その歴史を直接的に背負う人たちは、目を覆いたくなるのもしれない。
いずれにせよ、戦争の悲惨さを改めて感じた映画でもあった。
彼が救出したの75人だったか…。
戦争全体から見れば微々たる数だ。
だが、その75人の人生は彼が繋いだ。
そこで断絶されてもおかしくなかった。
継続は絶望的だった。
そんな折に、差し出される手に神の存在を感じたとしても、それは間違いではないのだろうと思う。
良い映画だった。