「メル・ギブソンの変態性、ここに極まれり!」ハクソー・リッジ さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
メル・ギブソンの変態性、ここに極まれり!
※ 長文注意。
※ 勝手な妄想です。
『ハクソー・リッジ(2016)』
原題 Hacksaw Ridge
(あらすじ)
第二次世界大戦に実在した衛生兵:デズモンド・ドズ(アンドリュ・ガーフィールド)の物語です。
敬虔なクリスチャンであるデズモンドは、アメリカ軍に志願するも「汝殺すなかれ」を守り、銃を持たないことを貫きます。
ブートキャンプでは銃を使用した訓練すら拒否、その為、組織ぐるみの虐めにあったり、軍法会議にかけられたりします。
が、元軍人の父に助けられ、戦地:沖縄の前田高地(ハクソー・リッジ)に送られます。
「アポカリプト」から10年ぶり、メル・ギブソン監督作品です。
公開前に投稿しようと思っていたのになぁ。
6月24日から公開されてますよ!!
この「ハクソー・リッジ」の撮影が、2015年9月21日~2016年12月末。
そして二転三転してとうとう渡辺謙さんが降板した「沈黙-サイレンス-」が、2015年1月30日~同年5月。
これ二作とも舞台は日本。
主演が二作とも同じく、アンドリュー・ガーフィールドです。
なんでこんな同時期に、こんな二作が制作されたんでしょうね。
私はどうしても「沈黙-サイレンス-」に対する、メルギブ的な答えが「ハクソー・リッジ」
のような気がしてなりません。
何故なら二作の主人公は、同じように"神の声"を訊こうとしているからです。
しかし、その結果は大きく違います。
「沈黙-サイレンス-」は遠藤周作原作。
かなりな話題作だったので、あらすじは割愛します。
ま、江戸時代に行われた、幕府によるキリスト教徒弾圧と、苦悩する宣教師のお話でした。
幕府がキリスト信者に行った拷問の数々が、当時の機具を用いて再現されているとのこと。
ネット上では、この拷問に対して「酷い」との感想が散見されますが、私はそれより宣教師達が行った農民達への暴力の方が酷いと感じました。
だって、あの農民達は、聖書を持たないんですよ。
宣教師の口を通じてしか、神を知り得ません。
その中で、パライソ=天国に行くと幸せになれるんだ。
というような、天国=仏教で言うところの極楽だと解釈させた(ロドリゴ:アンドリュー・ガーフィールドはそうだと肯定します)彼等の布教活動は、如何なものか。
だから肉体への拷問だけが、暴力ではないと思うんです。
神の教えを説けばとくほど、クリスチャン的な行いから遠のく。
むしろ棄教してからの方が、クリスチャン的な行いができる。
と、いう矛盾。
信仰心と、クリスチャン的な行いは、相反するのか?
と、いうスコセッシの問いに、この方が答えてくれます。
そう、超伝統主義的カトリック教徒の彼。
「ブレイブ・ハート(1995)」を監督し、一国を独立へ向かわせた彼。
熱心なカトリック教徒でありながら、しかしプライベートでは奥さん以外に子供を産ませ、その女性に暴力をふう彼。
アルコールに溺れ、人種差別的な発言をする彼。
なので一時期、芸能界から干されていた彼。
そんな、もろもろアンビバレントな彼。
「パッション(2004)」で、キリストの"受難と磔刑"を描きましたが、実はキリスト自身を自分が演じたかったというのは有名な話(年齢的にできませんでしたが)。
そう、彼は「救世主(メシヤ)」になりたいんです!!!
そんな彼の願望が、ここまではっきりと出た作品はないと思います。
あ、彼とはご存知、メル・ギブソンです!
本作の主人公デズモンドは、武器を持たず、戦場で75人の負傷兵を助けました。
場所は沖縄の、前田高知。
ノコギリで切ったような崖は、アメリカ人に「ハクソー・リッジ(のこぎり崖)」と呼ばれ、恐れられていました。
実際に、あまりに酷い戦場だった為、ベトナム戦争の帰還兵のようにPTSDを発症した兵士も多いのだとか。
しかし日本兵が卑怯な戦い方をすると語るシーンから、反日という意見もあるようです。
日本兵:神出鬼没なモンスター。
アメリカ兵:それにびびりまくる。
という図式で、メルギブは日本兵を執念深く必死な兵士であると、リスペクトを込めて描いていると感じました。
沖縄戦があんなに接近戦であるということを、本作を観るまで知りませんでした。
リアルを追求するメルギブですからねー。
あの凄惨な戦場は、実際にかなり近い状態ではないかと思います。
腸がはみ出た死体。鼠に食い荒らされる死体。死体、死体、死体、大量の死体で、地面は埋め尽くされています。
そこに丸腰で立つ、デズモンド。
思わず、天を仰いで神の声を訊く。
すると聞こえたのは……?
信仰心と、クリスチャン的な行いは決して相反しないよ。
そんなメルギブからの、スコセッシに対する答えにも思える本作。
あのー、二人して一度、語り合ったらどうでしょうか(笑)?
そしてあのラスト。
まるで宗教画のように、神々しい光に包まれたデズモンド。
メシヤのデズモンドに、メルギブが重なるラスト。
「メルギブの変態性、ここに極まれり!」
心の中で思わず叫んでいました。
むっちゃ面白いです。
でも駿さんもそうですけど、やっぱ一定の年齢を超えると、自分の変態性を隠そうとしなくなるんですね(笑)
いいと思います。面白いもん。
因みに……。
スコセッシ『最後の誘惑(1988)』
原題 The Last Temptation of Christ
メルギブ『パッション(2004)』
原題 The Passion of the Christ
なんかがあります。
うん、やっぱ一度、二人で語りあったらいいと思う。
因み継いでに、「沈黙-サイレンス-」でキチジロー(窪塚洋介)がユダとみんな言うけど、(踏み絵)を「踏め」と言った時点で、ロドリコだってユダになったんだと思うよ。