「「クリスマスの奇跡」に甘えた、含蓄のないドラマ」素晴らしきかな、人生 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
「クリスマスの奇跡」に甘えた、含蓄のないドラマ
クリスマスには毎年恒例という具合に公開される「聖夜の奇跡」の物語。邦題を歴史に残る名作とほぼ同名にしたのも分からなくもないような内容だが、個人的には「素晴らしき哉、人生!」より「クリスマス・キャロル」の方がイメージ的に近いような気がする。
映画自体も、「クリスマス・キャロル」のような神話的・寓話的な物語として作られている感じがあり、現実を舞台にしてはいるものの、少しだけ足が空に浮いたような世界の物語のよう。これはクリスマス映画だけに許された醍醐味。
ただ、あまりにもすべてがうまく行きすぎて、途中からどんどん白けていく自分に気づいてしまった。舞台役者3人を雇ってそれぞれ「死」「愛」「時間」を演じさせるやり方も、非常に危ない綱渡りのような作戦でしかないのに、いとも容易に簡単にうまく行く。彼らのアドリブ演技も見事うまく行く。そして彼らを雇った主人公の同僚たち3人にもちゃんとそれらしいセリフを言って心を改めさせてくれる。ラストシーンを見て、彼らが本当に天使か何かで、すべて彼らの手中にあったからうまくいったのだとしても、あまりに事が上手く運び過ぎて観ていても楽しくない。
加えて、同僚たちが撮影した動画のことから、ウィル・スミスが同僚を諭す姿はもはや神の役割。ついさっきまで失意に暮れていた男に神の役割を落とし込む図々しさ。ていうか、全部お見通しで分かってたんなら、もっと前からちゃんとしてろよ!と余計に白けてしまう。
突飛な作戦を思いついた同僚たちも、主人公を本当に心配して気に病んで・・・というより、それ以上に仕事と会社が心配でやっているように見える節があるのがずっと居心地が悪かった。
だいたいにして、この映画の物語、大事なことや伝えたいことのすべてをセリフにして相手に語って聞かせることで成立させている部分がある。だから登場人物の全員が、「言われなければ分からない愚鈍な人たち」「自分でものを考えない人たち」にしか見えなくなっていく。映画を見ていても、死について、愛について、時間について、観客が自ら能動的に考えを巡らす余地は作られていない。そこまでの考察も為されていない。ただ分かり易い感動と分かり易いお涙を演出しているだけ。ますます興醒めする一方だった。
クリスマス映画は全般的に大好きで、ある程度の欠点も大目に見て、クリスマスの雰囲気と、クリスマスの精神に免じて許せたけれども、この映画に関してはそれすら出来ないくらい酷かった。クリスマスシーズンに観ていたら感じ方も違っていたのだろうか?
実力派スター俳優たちの無駄遣いに、涙が出そうになった。