「オリ・マキは微笑んでいた」オリ・マキの人生で最も幸せな日 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
オリ・マキは微笑んでいた
スウェーデン映画「ボーダー 二つの世界」に出演していたエーロ・ミロノフが出ている。こちらはフィンランド映画なので、ミロノフがスウェーデン語とフィンランド語のバイリンガルなのか、それとも2作品とも同じ言語なのか不明である。そういうことが気になるということは、あまりのめり込むことができない作品だったということだ。
オリ・マキというフェザー級ボクサーが主人公だが、はじめの方のシーンを観たときから試合の結果がほぼ予想できる。そしてエーロ・ミロノフ演じるマネジャーが登場すると、その予想は確信に変わる。
ボクサーというのは因果な商売で、ファイトマネーで生活できるのは世界チャンピオンクラスのごく一部とされている。練習する場所はジムに提供してもらわなければならないし、指導はスパルタである。独自練習で強くなれるのはチャンピオンレベルのボクサーだけで、しかも極端にストイックでなければならない。無名のボクサーはいろいろな面でジムに頼らざるを得ないのだ。
まだチャンピオンになっていないボクサーをジムが客寄せパンダに使うのは無理がある。しかしジムの経営は楽ではない。引っ張れるカネは残らず手に入れておきたいのが本音だ。カネがなければボクサーを練習に集中させられない。かくしてオリ・マキの練習環境は客寄せパンダとの両立という劣悪な条件になってしまう。
英題の「人生で最も幸せな日」というタイトルの意味は多義的だ。その日は世界タイトルマッチの日であり、ボクサーとしての苦役から解放される日であり、そして婚約の日でもある。名誉や地位といったものに価値を感じないオリ・マキにとって、最も大事なのは何だったのか。それは原題の「微笑む男」に秘密がありそうだ。間違いなくそのときオリ・マキは微笑んでいた。
あまりのめり込むことの出来なかった作品ではあるが、見終わると不思議な後味がある。16ミリのモノクロの映像が醸し出す雰囲気は、如何にも昔の話であることを表し、かつてこのような青春があったのだと確かに実感した。面白いと思わなかったにもかかわらず、もう一度観てみたい気もするのであった。