劇場公開日 2017年6月3日

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「真剣ではあるが…」武曲 MUKOKU 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0真剣ではあるが…

2018年11月4日
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鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

難しい

運命か、宿命か。
剣道で対する二人の男。
時代劇とまでは言わないものの、明治か大正か古い時代設定かと思ったら、現代の鎌倉が舞台。

二人の剣道への向き合い方は全く異なる。
研吾。
剣道の天才児だったが、ある理由から今は剣を棄てた。
警備員のバイトで食い繋ぎ、酒に溺れる、自暴自棄・自堕落な日々。
融。
ラップ作りに夢中の高校生。
剣道部と揉めた時、秘められた剣の才能を、研吾の師に見出だされる。
そんな二人が出会い、やがて互いを意識し合うようになり…。

努力型の才か、天賦の才か。
それらは相対するが、何処か自分自身を見失い、模索し、苦悩・葛藤する姿は通ずる。
二人共それぞれ何かを抱えているが、特に研吾は深く、重い。

幼い頃から剣道の達人だった父に鍛えられた研吾。
が、この父がスパルタ…どころではない。
「剣を取れ」「死ぬ気でかかって来い!」…時には日本刀を向け、虐待レベル。
そんな父へ芽生えた感情は師への敬愛ではなく、恐怖と、憎悪。
ある時、事件が…。
父と剣を交えた時、父に重傷を負わせ、その父は今も昏睡状態。この時、本当に父を殺してやろうとさえ…。
剣を持った者の重責、畏怖的存在の父、犯したトラウマ事件…研吾が剣を捨てざるを得なかったのも無理はない。
そんな時出会った、融。
研吾は融と初めて交えた時、彼の剣に、父と同じものを見る。
研吾にとっては、向かい合わなければならない存在。
融にとってもまたそう。
そして、ある台風の夜、二人は相交える。文字通りの、真剣勝負。
己の全てを懸けて…。

綾野剛と村上虹郎、二人の熱演は圧巻。
特に、台風の夜の死闘は、壮絶。
鬼気迫るものを感じた。
話や設定自体はシンプル。現在の剣士と剣士の闘い。成長と再起。
重厚な物語、演出、キャストの熱演、語り継がれるような名シーン…。

…が、力作ではあるが、名作にはなり損ねた。
話や設定はシンプルな筈なのに、何故かあまりよく伝わって来ない。
ラストシーンこそは晴れ晴れとしてはいるものの、ほとんど全編重苦しい。
真剣ではある。真剣であるが故に、堅くなり過ぎてしまったようだ。

監督は熊切和嘉。
そういやこの監督の作品、少々苦手だった…。

近大