「スクリーンからほとばしる気迫。クライマックスを目に焼き付ける」武曲 MUKOKU Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
スクリーンからほとばしる気迫。クライマックスを目に焼き付ける
圧倒的な画力。綾野剛と村上虹郎の10分間にわたる豪雨の中での決闘。スクリーンからほとばしる"気迫"。このクライマックスを目に焼き付けるために構成された映画だ。
"殺人剣"と呼ばれる剣道の達人を父に持ち、その父に育てられた"研吾"(綾野剛)。対して、剣道初心者でありながら、本人も気づかない天性の才能を持つ高生・"羽田融"(村上虹郎)。2人の心のつばぜり合いが、スパークする。
本作は、鎌倉を舞台にして剣道の心を描く映画である。主演の綾野剛は、体脂肪率を7%まで絞り込み、剣道世界チャンピオンとの2カ月にわたる特訓をしたという。近年、肉体美はライザップで買える時代だが、それを実用的に使う"美"がここにはある。
原作では、"研吾"(綾野剛)自身が、高校生・"羽田融"の天才性を見出すが、本作では"僧侶・光邑雪峯"に変更されている。光邑役の柄本明のポジションを活かすためと考えられる。それによって、"剣"(武士)、"鎌倉"、"禅道"というエレメントが有機的につながるのだが、"羽田融"が剣道を始める動機をはじめ、設定が部分的に破綻しているのが少し残念。
熊切和嘉監督と綾野剛は、「夏の終わり」(2013)以来のタッグになる。熊切監督は「私の男」(2014)で、モスクワ国際映画祭の最優秀作品賞を受賞しつつ、浅野忠信に主演男優賞をもたらしたが、今回の綾野剛の凄まじい演技も、これから評価されるだろう。
さて一方の村上虹郎は、昨年、柳楽優弥の演技が絶品だった「ディストラクション・ベイビーズ」(2016)に、柳楽の弟役で出演していた。積極的に作家性の高い監督作品に挑戦している村上だが、歌手UAの息子。目元からして母親にチョー似ている!
今をときめく菅田将暉が、綾野剛主演作品である「そこのみにて光輝く」(2014)をきっかけに注目されたように、この作品における村上虹郎の凄みにも、"綾野効果"が波及するかもしれない。
そしてその2人を支えるのが、共演者たちの"本気"である。小林薫、風吹ジュン、柄本明の安定度バツグンの演技がバックグラウンドを強固にしている。元AKBの前田敦子も出ているが出番が少ない。彼女も役を拾っているんだなぁと苦労を察したりして・・・。
セリフのない剣士の対峙を描いているため、映像と同じくらい音が重要なポジションを占めている。本作の音楽は、"あらかじめ決められた恋人たちへ"(←これがバンド名)の池永正二が担当している。熊切監督とは大阪芸術大学卒つながりだったりするだが、若手監督と組むことが多く、同期には山下敦弘監督もいて「味園ユニバース」(2015)の音楽も担当している。
(2017/6/9 /ユナイテッドシネマ豊洲/シネスコ)