「死ぬ前にしっかり人生を生きるのよ」ガープの世界 きりんさんの映画レビュー(感想・評価)
死ぬ前にしっかり人生を生きるのよ
・・と言っておきながら
どんだけ~!根掘り葉掘り、ガープに構い、干渉するお母さん=グレン・クローズには抱腹絶倒。
この母にしてこの子ありだなぁ。
しかし冒頭のタイトルの言葉
「死ぬ前にしっかり人生を生きるのよ」
は、だんだんわかってくる事なのだが、実は彼女が彼女自身に向けて言い聞かせていた決心だったわけだ。
タイプライターを手にしてからのガープの母の前進はもう誰も止められない。
①ホップ〜②ステップ〜③ジャンプの彼女の三段跳びは
①イングリッシュペイシェント〜
②息子ガープ〜
そして
③自分自身のための離陸なのだ。
傷病兵と息子ガープを助走の踏み切り板にして、彼女は大空へと跳躍(と)んだ。
ガープの父は戦死。
母親のグレン・クローズは撃たれ、ガープも撃たれる。
長生きする家系でも、あるいはそうでなくても、精一杯の自分を生きた家族の物語なのでしたね。
どこかラッセ・ハルストレムの作風=「サイダーハウス・ルール」に似ていると思ったら、なるほど、矢張り同じジョン・アービングの原作なのでした。
読み聞かせ文学の王道です。
人の人生というものはそのままで豊かな小説なのだと。その中身は奇抜であっても、物語の進行は実に堅実で、時系列のままに進みゆき、読者に ため息を与えてくれる。
子供の絵本や 中学生が初めて出会う文学のように「ガープの世界」は大変みずみずしい。
作家ジョン・アービングと映画監督ジョージ・ロイ・ヒルのタッグ。夢見心地で馬鹿な人生を送ってくれるこういう作家や映画監督がいてくれるから、僕たちもスクリーンの中で空を飛べるんだと思います。
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傷病兵や老人の 上に跨がるというモチーフは古今あって、
古くはメソポタミアのあの有名な「ノアの洪水譚」(原典はギルガメッシュ叙事詩)から、
日本では古事記のイザナギ・イザナミの国生み。
映画「キャタピラー」「そこのみにて光輝く」等など。
人間の性と豊穣への欲求は、ある意味おぞましくもあり、しかし古来よりとても滑稽でいて、そしてとても美しい。
お母さんのグレン・クローズは開拓者でした。
1982年の作品。ノアの箱舟の娘たちのように能動的に子種を得たこのガープの母は、その後フェミニズムの旗手としてシェルターを開設し、ヘリで国中を飛び回って大活躍をしたのでした。
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そしてフォロアー諸君、
これは余計な情報だが、と前置きして
男性は、その臨終の床において、昏睡状態で勃起をするんだそうだ。レム睡眠〜ノンレム睡眠のあれね。
生体としての最後の反応か。
おじいちゃんに泣いてすがる孫娘たちは“違和感”に飛び退いてドン引きし、家族たちに失笑されながらの我々の昇天とはね(笑)
劇中グレン・クローズの父は補聴器を振り回して怒号し、母親は卒倒した。
ま、それでもいいではないか。かまわないではないか。
人生、おもろき哉である。
T・S きりん
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東京都庭園美術館はいいですね。
各部屋の照明器具や、カーテンなど、テーマがあるのがすてきです。
以前は屋上に上がれたのですが、立ち入り禁止になってしまいました。
閉館してしまいましたが、品川の原美術館も好きでした。