「ピットとコティヤールが演じる、戦時下に貫く愛の物語とスパイの宿命」マリアンヌ Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
ピットとコティヤールが演じる、戦時下に貫く愛の物語とスパイの宿命
第二次世界大戦で暗躍する諜報部員の一組の男女の運命的な出会いと別れをロマンティックに描いたロバート・ゼメキス監督の心理サスペンス映画。ブラッド・ピットがカナダ空軍の卓越したスパイ、マリオン・コティヤールが謎のフランス人を演じて、フランス領モロッコでナチス・ドイツの大使暗殺の特殊任務を遂行するアクションシーンと、後半はロンドンを舞台にドイツ軍の空襲に遭いながらも幸せな家庭を築くも、軍の非情な戒律に縛られる ピットが不安を抱えながら愛を貫こうとするラブ・ロマンス。ピットが珍しくフランス語の台詞を聴かせる。
偽夫婦が惹かれあう在り来たりなロマンスものと見せかけて、後半の展開は心理的に追い詰められたピットがフランスまで渡り、危険を冒し妻の謎を探ります。同時に飛行機で兵器を届けフランスのレジスタンスに援助するシークエンスは、ジャン=ピエール・メルヴィルの名作「影の軍隊」を彷彿とさせるが、ゼメキス監督に戦時下の緊迫感を特に意識した演出は見られない。全ては、悲しく哀れな自己犠牲愛を選択せざるを得なかったコティヤールの女心と母心で完結するメロドラマを、中庸を得た演出で丁寧に奇麗にまとめている。反面、ストーリー全体を通して知ると、他に生きて行く手段は無かったのかの疑問も浮かびます。何故、結婚の時コティヤールは全てを夫に告白しなかったのか、子供を人質に取られていたとはいえ夫に相談するべきだった。ここで興味深いのは、ロンドンに住むドイツ側のスパイを態と泳がせて情報戦をコントロールする連合軍の実態でした。と言うのも、この映画で最も意外性で面白かったのが、子供を預かる家政婦を最後ピットが始末するショットだったからです。
実行部隊に所属するスパイを演じたピットは、この時53歳であと10歳若ければ最適だったと思います。それでも最後の絶望した喪失感の演技は良かった。いい演技を見せたのは、「アネット」でも好演していて、今回何処か得体の知れない不思議な魅力を漂わす女性を演じたマリオン・コティヤール。彼女の演技でラストは忘れられないものになりました。スティーブン・ナイトの脚本については、ドイツ側のスパイの掘り下げがもう少しあれば良かったと思います。最後の最後に本名マリアンヌ・ヴァタンを娘への手紙に残すところはいい。ドン・バージェスの撮影はカサブランカ、ロンドン、どちらも美しく、抑えた色調のコントロールが行き届いている。ただ綺麗すぎなのは、ゼメキス監督の好みなのかも知れません。