「整いすぎてスキのない良品ゆえに、小ぢんまりとしてしまう」マリアンヌ Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
整いすぎてスキのない良品ゆえに、小ぢんまりとしてしまう
"あぁ、いい映画を観た…"と安心して観ることができる、とてもスタイリッシュで上品な映画で、何より若い頃のカッコいいブラピが帰ってきた。とても53歳とは思えない。
しかもヒロインはマリオン・コティヤール。まるで美貌、実力、知名度、キャリア、すべてが揃ったクラスでナンバーワンの男子と女子がそろって学級委員になった感じだ(笑)。どれほどの高い期待にもきっと応えてくれる。
脚本のスティーブン・ナイトは、「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」(2015/原題:Locke)で、トム・ハーディの一人芝居によるワンシチュエーションドラマを構築した。今回も完全にブラピとマリオンの存在感と演技力ありきで、余計な装飾をそぎ落としていく。そんなシンプルなサスペンスをめざしているようだ。
またスティーブンは脚本家として、名画「カサブランカ」(1946)をリスペクトしている。ブラピとマリオンの存在は、ハンフリー・ボガードとイングリッド・バーグマンの再来である。2人は前半、フランス領モロッコのカサブランカで恋に落ちるところから始まる。主人公のレジスタンスがドイツ人の店で、フランス国家「ラ・マルセイエーズ」をピアノ演奏した逸話を、マリオンに"その有名な話なら知っているわ・・・"と言わせたり。
映像はVFXが多用されているにも関わらず、デジタル臭さを感じさせない、クリアで美しい構成、1940年代の戦時下の空気感を完全再現する、セット、衣装、美術・・・名匠ロバート・ゼメキス監督とスタッフのプロフェッショナルな仕事は感心することしきり。
興行記録を狙う他メジャー作品のように、尖がった設定も奇抜な演出もない。あまりにも整いすぎていることが、逆にこじんまりと感じさせてしまうのが、とても残念な良品。もの足りなさをかんじるのは贅沢。
ちなみにスパイ同志の秘匿の婚姻関係というところで、ブラピとアンジェリーナの「Mr.&Mrs. スミス」(2005)が頭をよぎってしまうが、質もテイストもジャンルも似ても似つかない作品。
(2017/2/10 /ユナイテッドシネマ豊洲/シネスコ/字幕:松浦美奈)