「現実の世界のポリフォニー」海は燃えている イタリア最南端の小さな島 kthykさんの映画レビュー(感想・評価)
現実の世界のポリフォニー
ランベドゥーサ島、Google Mapで見るとイタリアの最南端、シシリア島のさらに南、マルタ島とアフリカ大陸のチェニジアの中間にある小さな島。
この島に住むサムエル少年は母はいないが、漁師であると父と祖父母と長閑な生活。夕食は採りたてのイカを煮込んだスパゲッティ。つましい食卓だが、そこには安心、安全、優しい光と静かな時間が流れる。サムエルはまだまだ海が苦手、友達とパチンコで小鳥を打つのが大好きだ。
その冬の周辺海域には、粗末なゴムボートや木造船に満配に積み込まれたアフリカ人の乗る難民船。そして、黙々と懸命に海に向かうイタリアの救助船とヘリコプター。真っ暗闇の彼方を捜す、スポットライトの光が慌ただしく、大きく波打ち恐怖と絶望の顔顔顔を照らし出す。悲劇を淡々と報告するコンピューターを前にする医師の呟きと、サムエルのお婆ちゃんの台所から流れる、島のリクエスト曲のラジオからの調べが交錯する。
映画でのサムエル家族たちと難民の人びの映像は、一切関わることなく、全く別々の二つの旋律として流れ、そしてフィルムは終わる。観客である我々は初めて知る。今、目の前に展開されているのが、我々が生きているポリフォニー、現実の世界なのだと。
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