「ボーダレス」海は燃えている イタリア最南端の小さな島 たぴおかたぴおさんの映画レビュー(感想・評価)
ボーダレス
タイトルとは裏腹に、この映画の海はおだやかだ。
おだやかだが、うねりが大きい。
うねりが大きいのに、きわめて静かだ。
イタリアの、地中海の、難民たちを呑み込む海も、母なる海。
致命的で、かつ、救いの海。
海は何も言わない。
登場人物たちが、話し、笑い、駆け回る。作業に集中する。料理をし、料理を待つ。沈黙し、涙する。
驚異的だ。
カメラの前で、カメラを意識しないのだ、誰も。
ショットのタイミングがよすぎるし、セッティングしているのか、とも思った。
台詞が決められて、演技をしているのかとも。
そうとうカメラは存在を消すほどに被写体に馴染んで馴染まれているのだろう。
(島に1年半住んで撮ったのだという)
そしてカメラは狭い場所でも雄大な自然を写すようにゆっくりゆっくり横にパンする。
家も人も海も悲しい事件も、すべて俯瞰している神の定点観測のように。
これが観察映画だというのなら、僕らはこの神様のカメラに常に観察されているのだろうか。
イタリアの南、シチリア島の南の、マルタ島のもっと南、ランペドゥーサ島。
その小さな小さな島には、5500人の住民に対して年間5万人を超える難民が、アフリカから中東から、命からがらたどり着く。
頻繁に上がる遺体の検分は、たった一人の医師には負担が大きい。
サムエレ少年はおじさん顔だが、まぎれもなく12歳で、手作りの木製パチンコに夢中。
将来の職である漁師になるために、船酔いをなくす練習をする。
切実な現実に苛まれるそばで、小さな希望の光もまた日々を送る。
(筋書きのある)ふつうのドキュメンタリーよりも、脈絡がなく余白に満ちて想像が膨らむ。
ふつうの物語よりも、詩情にあふれたドラマ。
フィクションとドキュメントのあいだのボーダレス・ゾーンがいちばんドキドキする。
ジャンフランコ・ロージ監督は、前作『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』でもドキュメンタリーでベネチア金獅子をもらい、今作でも同様にベルリン金熊をもらった。
独特のドキュメンタリー術は、「観察映画」の再定義を必要とするかもしれない。
未体験の人は一度体験してほしい。
初めは眠くなるが、そのうちじわじわとくる。
個人的意見だが、前作よりも今作の方がおすすめ。