「予想を非常に良い意味で裏切られた作品。」ドント・ブリーズ kobayandayoさんの映画レビュー(感想・評価)
予想を非常に良い意味で裏切られた作品。
2017年元日の昼に“TOHOシネマズ 新宿”のスクリーン6にて鑑賞。
2013年に公開されたリメイク版『死霊のはらわた』を監督した事で注目を集めたフェデ・アルヴァレズ監督、脚本家のロド・ザヤゲスのコンビによる最新作が2016年の夏に全米で大ヒットした低予算のスリラー作品である本作『ドント・ブリーズ』で、その手のジャンルが大好きな自分は、興味を持って劇場へ足を運びました。
経営破綻によって過疎化が進んだデトロイトでボーイフレンドのマネー(ダニエル・ゾヴァット)やアレックス(ディラン・ミネット)と共に押し込み強盗で金銭を稼ぎ、退屈な日々の憂さ晴らしをしていたロッキー(ジェーン・レヴィ)はある日、元軍人の盲目の男(スティーヴン・ラング)が大金を持っている事を知り、3人で夜中に家に侵入するが、そこでは彼女たちの予期せぬ事態が待ち受けていた(あらすじ)。
ホラーのリメイク作として評価が高めで、オリジナルのファンからは酷評されても、それなりにヒットした『死霊のはらわた』を大いに楽しみ、DVDの初回生産版を買うほど気に入った自分にとって、同作の生みの親のサム・ライミ監督がプロデュースし、アルヴァレズ、ザヤゲスと再タッグを組み、主演女優のジェーン・レヴィを再び起用して、本作が作られたという事は注目せずにいられない知らせで、全米で大ヒットしているのを知った時から、日本での公開がある事を願い、正月映画として公開される事が明らかとなった時には有頂天となり、「新年一本目」として観に行くことを決めたほど、期待度が高い一作でした。その期待は全く裏切られる事無く、期待して観に行った価値があったと思えるほど満足できました。
本作は近年流行りの“ホーム・インヴェイジョン・スリラー”のジャンルに当てはまるモノですが、その大半が侵入される側の視点で描かれ、“無力な人が巻き込まれる”或いは“無力に見えて、実はとんでもなく超人だった”というビックリ仰天な意外性のある設定が満載で、ホラー系の作品のなかの新たなジャンルとして君臨しつつある要素を本作では、どれだけ活かした設定になっているのかが気になり、そこを楽しみにしていました。既存の作品と違うのは、侵入者側の視点で描かれ、盲目の男が元軍人という設定を序盤で既に明かしていて、他の作品なら「これ、明かして良いの?」と一度は思うことをあっさりとやっているので、一見、「盲目でも、元軍人を相手にするんだから、次々と倒されるんだろうな。侵入者といっても20代の若者で3人しか居ないし、上映時間もエンドロール込みで88分しか無いから、その部分を除くと、82分ぐらいだから」と思うのですが、その予想を非常に良い意味で裏切り、単なる“ホーム・インヴェイジョン”モノになっていなかったり、あっさりした描写が少なかったりと斬新な点が多く、高評価と大ヒットに納得でき、本作のような作品では珍しいぐらいの満席の客入りが続出という知らせも、当然(私が観たときも満席で、これを観たあとの深夜以降に鑑賞した“ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー”での空席ぶりとは雲泥の差を感じたほど)と思えました。
『死霊のはらわた』とは違って、残酷なシーンは殆ど無く、同作では大量の血糊を頭から浴びて、強烈な怪演ぶりを見せつけたジェーン・レヴィも印象が180度違い、押し込み強盗をしながらも「この街を出て、カリフォルニアへ行くんだ」という目標を持った設定なので、感情移入が難しいキャラなのに、本題に入っていくと、自然に感情移入が出来てしまい、盲目の男に追い詰められる度にハラハラし、そう簡単にやられないタフネスぶりを併せ持ったキャラである事が次第に明らかとなり、しつこい男としぶとい女性の対決はまるで『ターミネーター』の一作目を彷彿とさせ、盲目の男も単なる迎え撃つだけのキャラでは無いことが話の面白さを盛り上げ、スリラーとホラーを巧みにブレンドした話と設定、展開が効果的に働いていて、88分と短く、テンポも悪い方じゃないのに、あっという間ではなく、とてつもなく濃厚な内容で、感覚として2時間近く(上映時間が120分未満の作品には、よくこのような感覚を持つことがあり、そういうのは大抵、“もっと観ていたい”と強く思うものばかり。逆に近年は125分を越える作品の大半を短く感じます)はあったと思えたので、そう感じられるほど楽しめたという事で、本作は素晴らしい一作という事なのでしょう。
盲目の男に扮したスティーヴン・ラングは『アヴァター』以降、色々な作品で目にするようになり、『コナン・ザ・バーバリアン』の悪役、『沈黙のSHINGEKI』の謎めいた富豪の男など、役柄も様々演じていましたが、本作の役柄は『ブライド・ウェポン』での主人公の父親役に近く、同作では「あらゆる環境で生き抜けるように主人公を訓練した」という設定(これは“ホーム・インヴェイジョン”モノの代表作の一つ“サプライズ”の主人公にもあったので、“ブライド・ウェポン”鑑賞時は「もしかして、あの主人公とこの主人公は姉妹だったんじゃ」と思ったり)だったので、本作とは製作者も違うのに、まるで、その父親が本作で登場したような気持ちで観ていました。そういう見方が出来る点(この見方をしている人は、余程のマニアックな映画ファンしか居ないでしょうが)も個人的には良かった部分で、ラングの新たなイメージを確立したと思えるほどの強烈な役柄はしばらく忘れられず、鑑賞終了後に作品の印象を振り返る度にニヤニヤが止まりませんでした。それぐらいクールなキャラだったので、今後の彼の出演作で白のランニングシャツ姿で立っているシーンがあるならば、間違いなく、本作を連想し、戦うキャラじゃなくても、「誰かに一撃を食らわすんじゃないか」と思うことがあるかもしれません。
本作は大ヒットした事もあり、アルヴァレズ監督は続編の製作を企画しているようですが、それがどのような話になるのかが早くも気になっています。派手さは無くても、低予算のスリラー映画の醍醐味を思いっきり見せつけ、背筋がゾクゾクする緊迫感溢れる展開の数々が次回作でも表現される事を願い、それも観られる日が来るのを待ちたいです。