「語られているメッセージと鮮烈な映像は、深く心に突き刺ささってくる大人向けの寓話」五日物語 3つの王国と3人の女 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
語られているメッセージと鮮烈な映像は、深く心に突き刺ささってくる大人向けの寓話
本作は17世紀にナポリ王国で生まれた民話集「ペンタメローネ(五日物語)」の中から、現代にも通じる「女の性」をテーマに3話を選んで映画化したものです。
3つのストーリーは、それぞれ三つの王国を舞台にし、3人の女性を主人公にした物語が、並行して語られます。ただ、ラストでは一つのステージに登場人物が集まり大団円を迎える形式を取っています。どうせ集めるなら、とってつけたようなエンディングでなくて、もっと結びつけて欲しかったという意味で★一つ落としました。
原作は、グリム童話の原点となった寓話だけに、痛烈なペーソスを纏ったダークな大人向けのファンタジー作品でした。
3話とも現実にはあり得ないような奇異な物語なのですが、それでいて不思議と物語の幻想世界へぐいぐい引き込まれるリアルさ持ち合わせている作品なのです。それもそのはずで、ハリウッドなら、手っ取り早くスタジオセットやCGで描いしまう三つの王国の背景を、実在する古城などで実写ロケ撮影したり、逆に現実感が乏しい怪物などは、あえて特撮映画のように造作で撮影するなど、マッテオ・ガローネ監督のこだわりと美意識が随所にちりばめられて、リアルな幻想世界を作り出しているのです。
黒ずくめの女王が、白で統一された広間で、赤い心臓にかぶりつく。緑の森の中に、深紅の布をまとった、白い肌の女が横たわる。絵画のような色彩と構図で描かれ表現される幻想的な世界や、剣と魔法の世界が舞台のゲームから出てきたようなキャラクターが、目を楽しませてくれました。エロチックで退廃的なシーンが少なくないのも、イタリア映画らしいところだと思います。
先ず1人目は、不妊に悩む女王が登場します。魔法使いの教えに従い、怪物の心臓を食べて、男児を出産します。しかし、怪物の心臓の調理を担当した女性も同時に懐妊し、王子とそっくりな青年へと成長するのです。二人はまるで一卵性双生児のように惹き付け合い、やがて王位を共有しあう密約まで交わしてしまいます。
その密約を知った女王は、脅威を感じて、ふたりをあらゆる手段で引き離そうとします。しかしそれは母親としても大きな犠牲を強いるものでした。そっくりな青年をなきものにしようとした、女王の企みは、誠に皮肉な結末を迎えてしまうのです。
さて2人目は、若さと美しさを求める老姉妹のお話です。
ある朝、お城のそばで美しい声が響いているのを、好色な王(ヴァンサン・カッセル)が聞き留めて、声の持ち主に魂を奪われてしまいます。しかしその声の主は、老姉妹だったのです。求愛に訪れた王をまんまとだました姉は、不思議な力で若返り、王妃の座に納まります。しかし本当の年齢がばれることを恐れるあまりに、お城にやってきた妹を押し返してしまいます。姉の若返りに嫉妬した妹は、自分も若返ろうと城下の人に尋ねて廻ります。とうとうとんでもない方法に暴走しまう妹は、最後に悲惨な結末を迎えてしまうのです。
3人目は、いつまでも王女を箱入りにしておきたい父である王(トビー・ジョーンズ)のお話し。この王様の趣味が変わっていて、ペットのノミを可愛がることでした。王女よりも、関心はペットにしかないほどの入れ込みよう。ただ王女も年頃になって、結婚して城の外に出たいと願い始めます。娘を手放したくない一心の父王は、娘の相手を王が出題するクイズを説いたものに決めることにして、国中にお触れを出します。なぜクイズにしたのかというと、父王はどうせ解けないとタカをくくっていたからでした。その出題内容とは、得体の知れない一枚の大きな皮の元なるものは何かというものでした。実はこの皮巨大化した父王のペットであったノミの亡骸から取ったものだったのです。誰が大きな一枚の皮を目にして、これがノミの皮であるとは、誰が想像できたことでしょうか?
醜い鬼が現れて、答えを言い当てたかにら、さあ大変!体面を重んじる王は、国民に約束したことを反故にすると、王の権威が傷つくといって、渋々醜い鬼に王女を渡してしまうのです。鬼と暮らすことになった王女の苦難の日々は続いて、さあてどうなるかというもの。
3つのお話しに共通するのは、願いはかなったが、過ぎたる願望のために災いが降りかかるというもの。いずれも因果応報というか、自業自得言うべきか、痛烈な皮肉交じりなのです。人助けをした者があっさりと命を落とし、裏切った者がいい目を見たまま終わることも…。
全くより良く生きるための教訓なんてあったもんじゃありません。寓話の世界は、ファンタジーに見えて、実は童話は怖ろしいものですね。ただ本作を反面教師として捉えれば、足ることを知るありがたみが感じられることでしょう。そういう点では、願望や快楽の追求が、苦しみなんだと喝破されたお釈迦さまの教えが身に沁みてきます。何が幸福に繋がるのか、凡人の私には見えてこないけど、少なくとも本作は、わたしたちの日常でおこりがちな悩ましいを、リアルに切り取っているものといえそうです。
ストーリーだけおえば、う~ん?と感情移入を拒む珍奇なものです。ただ語られているメッセージと鮮烈な映像は、深く心に突き刺ささってくるものを感じさせてくれたのでした。