「新宿の猥雑さが減ってしまったが」あゝ、荒野 前篇 凛さんの映画レビュー(感想・評価)
新宿の猥雑さが減ってしまったが
寺山修司の原作は未読。
1966年の作品を2021年の新宿にスライド。
東日本大震災も絡めながら、近未来を描くも昭和の薫りたっぷり。
少年院あがりの新次(菅田将暉)と韓国人ハーフの健二(ヤン・イクチュン)。
共に欠けた所のある2人がボクシングジムに入り、プロボクサーになる。
家庭に恵まれない2人の深い孤独感が全編を覆っている。
拠り所を渇望し、過酷なトレーニングに打ち込んでいく。
描写のひとつひとつに時間をたっぷりかけて、心の動きを丁寧に表現している。
新次と身体を重ねる芳子(木下あかり)は、オーディションで選ばれたようだが、胸の形が美しい。
ボクシングジムの片目(ユースケ・サンタマリア)の引退したボクサーが、新次達に期待を込めて受け止める抑えた姿が素晴らしい。
同時に進行する(早稲田大学風の)自殺防止抑制研究会のエピソード。
公開自殺は、三島由紀夫の割腹自殺のオマージュかなと思ったり。
ただ、寺山修司の時代の新宿歌舞伎町とは、猥雑で薄暗く、訳ありの人達が流れ着く場所であった。
かなり綺麗になってしまった今の昼間の新宿では、不健康さが出せないのが残念。かなり撮影場所は工夫していると思う。
ボクシングやセックスは丹念に描写しながら、新次と母の再会は案外サラッと流してしまう不自然さもある。
俳優も撮影もロケハンもとても良いので後編に期待。
前編終了後、後編の予告が流れるが、人間関係が狭いと思ってしまった。
誰でも新宿にやって来る違和感。良くも悪くも演劇的。
圧縮しようと思えば出来そうだが、敢えてこの長さ。気にならないぐらい見せ場はあるので、是非観て欲しい作品。
コメントする