「時を越えて料理と戦う二人の天才」ラストレシピ 麒麟の舌の記憶 みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)
時を越えて料理と戦う二人の天才
本作は、対照的な二人の天才料理人の生き様を描いた物語。最近、複雑な展開の作品が多い中で、シンプルに二人に迫っていくので、外連味の無さが際立つ、完成度の高い良質な人間ドラマに仕上がっている。
理想の料理を求め挫折した若き天才料理人・佐々木充(二宮和也)は、生活のため、最後の料理として人生最期の料理を提供する仕事をしていた。彼は料理への情熱を失っていた。そんな彼のところに、1930年代に満州で天才料理人・山形直太朗(西島秀俊)が日本軍の要請で作った幻のレシピ“大日本帝国食彩全席”探しと再現の依頼が飛び込んでくる。佐々木は、山形を知る人々を辿り、レシピの行方を追い求め、山形の料理に賭ける生き様、歴史に隠された真実に迫っていく・・・。
物語の大半は、満州での山形のレシピ作りである。1930年代の満州と言えば、激動の昭和史の真只中にあった地であるが、そこには敢えて触れず、山形の料理に賭ける生き様にフォーカスしている。無駄のない洗練された庖丁さばき、美意識の高さを感じさせる料理の数々に目を奪われる。何より、山形を演じる西島秀俊の肉体派と呼べるような引き締まった体付き、キリっとした姿勢の良さ、そつのない身のこなしが素晴らしい。天才料理人としてのリアリティーに溢れている。妻・千鶴を演じる宮崎あおいの凛としたアシスト振りが奏功し、苦悩しながらも形振り構わず一心不乱に料理に打ち込む山形の姿が胸を打つ。
一方、現代に生きる佐々木を演じる二宮和也は、定評のある演技力で、料理に一切の妥協を許さない、鬱屈した孤高の天才料理人を好演している。本作は、彼の成長記にもなっているが、山形の料理人としての姿勢に触れ、次第に覚醒していく過程を気負いのない自然体の演技で表現しているのは流石。
佐々木の親友であり、同じ料理人でもある柳沢健を演じる綾野剛が芸達者振りを発揮している。直情型人間ではあるが、佐々木の良き理解者であり、率直に自分の気持ちを表現するところは佐々木とは正反対。特に体を張った筋肉剥き出しの肉体派の料理作りに説得力がある。これは、美味い料理を作ってくれるなと得心できる。肝心の香り、匂いが伝えられないので、映像で料理の美味さを表現するのは難しいが、二つの方法が考えられる。一つは料理の美しさ、もう一つは逞しい肉体が創り出す料理作り、であろう。本作では、両方を巧みに駆使しているので、料理の美味さが画面を通して伝わってくる。食欲が刺激される。
終盤で、歴史が顔を覗かせ、物語はリアルな展開となり、紆余曲折を経て結末を迎える。少々ベタではあるが納得の結末だったので、余韻に浸ることができた。
本作は、料理に賭ける男達の生き様、幻のレシピの行方を追う時代を超えた歴史ミステリー、友情、夫婦愛、親子愛、平和への想いなど、様々な要素を巧みにブレンドした、心癒されて素直な気持ちになれる人間ドラマである。
こんにちは😃
本作、地味ながら西島秀俊さんの芸の幅を見た気がしました。『きのう何食べた』でも料理をたくさんされていますが、こちら満漢全席?のメニュー作りでしたか、壁にメニューを貼っては貼り替える、真剣さに驚きました。
中と露のセリフもあやつり、
命を張らねばならない料理人、って‥‥。あのシーンは、腹立つというが、時代が違えば、もったいない天才が、とか色々思いました