「こんな頑固爺さんになりたいもんだ」幸せなひとりぼっち りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
こんな頑固爺さんになりたいもんだ
日本版タイトルは、内容とちょっと違う感じがするけれど、原題は「EN MAN SOM HETER OVE」(オーヴェという名の男)。
本国で大ヒットした映画だということですが・・・
半年ほど前に愛する妻ソーニャ(イーダ・エングヴォル)に先立たれたオーヴェ(ロルフ・ラッスゴード)。
郊外の集合住宅に住み、近くの鉄道の操車場に長年勤めている。
が、その仕事場もリストラされてしまう。
妻を亡くしてからのオーヴェは、頑固というよりも偏屈なジジイになってしまった。
もう、生き甲斐もなくなってしまい、首吊り自殺を図ろうとした矢先に、隣に越してきたペルシャ人一家(夫はスウェーデン人で再婚、妻は妊娠中)に邪魔されてしまう・・・
というところから始まる映画は、自殺直前に走馬燈のように頭をよぎるオーヴェの過去と、自殺に失敗した後のオーヴェの様子が交互に描かれていく。
何度も自殺を図ろうとするが、その都度、横槍が入って失敗するあたりは、まさしくコメディだし、オーヴェに心を開く隣人たちが徐々に増え、オーヴェの心が開かれていくのも、笑いながら心温まる。
しかし、この映画、そんなに笑ってばかりいられない。
走馬燈のように少しずつ描かれるオーヴェとソーニャの物語が美しく切ない。
貧しいながら前向きな鉄道掃除夫のオーヴェと、インテリで文学を勉強して教師になろうとするソーニャ。
そんなふたりの姿も美しいが、切なくなるのは、後半。
オーヴェがどれほどソーニャを大切にし、常に傍にいたか、そして、オーヴェとソーニャに子供がなく、ソーニャが亡くなったときに「ひとりぼっち」になったかが描かれる後半は、実に切ない。
前半、チラリと写される、オーヴェの家の低いキッチンなどの伏線が上手い。
周りのみんなを助け、助けられたオーヴェは、隣のペルシャ人の妻が出産を機に、生きることに前向きになる。
が・・・、という終わりも切ない。
でも、幸せな感じがする。
傑作ではないけれど、「心温まる」という言葉が相応しい秀作でした。