「これが邦画の醍醐味」たたら侍 風邪の民さんの映画レビュー(感想・評価)
これが邦画の醍醐味
一度見たら、ワクワクしてドキドキして・・・面白かった、と終わる映画や、ただ面白い映画で満足している観客ばかりで溢れかえっているシネコン・・・。
このたたら侍が難しいだの、説明が足りないだのと言う人に文句は無い。素直な観客の感想としては真っ当だろう。
だがそれは・・・大河ドラマやキラキラな映画のような解りやすいモノばかり見ている観賞癖によるものかもしれない。
海外でみた映画は、ハリウッド作品のようなスッキリした裳のだけでなく、説明がない映画もたくさんある。
アフリカやアジア、南アメリカ地域の映画、北欧の映画・・・
などなど、人生を示唆する映画や、絶望的な映画だってある。
そんな映画すら見たことない日本人・・・。
国際的とは程遠い日本の未来にも思いを馳せてしまうような映画だった。
しかもシンプルな映画であり、台詞ではなく表情や間で見せる映画に仕上がっている。
行間を読む楽しさを味わえる映画ともいえる。
素人ながら・・・自称映画ファンの私。
このたたら侍は、冒頭に記した通り正に映画ファンの心をくすぐる日本映画に仕上がっていた。
しかし、このたたら侍という映画・・・これだけ映画館に行くのを迷った映画はなかった・・・。
私がEXILE系のファンではないからではない。
EXILE、AKIRA・・・といえば月9などのドラマのイメージが先行し、
EXILEHIROプロデュースといえばハイ&ローなどの過激ヤンキー映画=ファンの映画・・・という印象が頭をもたげてきてしまうからであった。
それでも、映画館に足を向けさせたものは予告の映像をみて
・・・もしかしたら、という勘が働いた。
正解。
いや、逆に映画館の大画面で見ていなかったら大袈裟ではなく一生後悔したに違いない、とさえ思える映画である。
大変申し訳ないことだがEXILE、AKIRA、ハリウッド…などのキーワードばかり
目にしていたので、勝手に=ど派手CGチャラ映画(御免)としかイメージしていなかった・・・が正直なところ。
▲▼(ここから先は内容に触れていますのでご注意ください)
だが、そういったイメージの真逆、AKIRAの殺陣と演技は、ドラマの大根(御免)とは大きく違い見事なもの。
正直、ここまで立派に武士の存在感を醸し出せる若い演者はそういないと思う。
小林直己という俳優も凄い。往年の時代劇にみる侍役者を向こうに回して当時のリアルな侍をほうふつとさせる存在感。
きけばこのお方もEXILE系だそう。
EXILEってこんなにちゃんとしてたのか!と思うことしきり・・・。
青柳翔も劇団だというが、台詞が極端に少ない中、表情で語れる数少ない
若手俳優に成長している。
勿論、脇もしっかり固められている。
奈良岡朋子、笹野高史、甲本雅裕、宮崎美子、高橋長英、津川雅彦、でんでん、山本圭、品川徹、田畑智子、中村嘉葎雄、佐野史郎、菅田俊 などのいぶし銀の演者たち・・・
に加えて、早乙女太一、音尾琢磨、石井杏奈など若手も負けていない。
何度も書いてしまうが、意外中の意外なのが、これらの映画ファンよだれもの
の俳優陣と肩を並べて、EXILE系の皆がそれらに引けを取らないどころか、堂々としたもので負けない演技をしていたことにはびっくりだった。
AKIRAの尼子の残党としての悲哀が、台詞が無くともヒシヒシと伝わって来た
小林は、侍だった。
最近大河に出ているベテラン俳優や若い俳優も軽い役者ばかりで、
とても侍や武士に見えない。時代劇はストーリーや台詞よりもその重々しさや武士道を感じさせる凛とした空気感こそ必要なもの。
大河やCGだらけの時代劇には辟易していた。
見るのが苦痛になっていたが、小林演ずる若者は往年の侍役者が演じているように凛とし秀逸だった。
EXILEの人とは思えない演技、存在感・・・。
よく考えたら、私の大好きな映画RAILWAYSの錦織監督作品だから、素直に映画館見に行けばよかったのだ。
映画は、錦織作品だった。EXILE映画というより錦織映画の時代劇版であったのだ。
もちろん、今までの錦織監督作品とはアプローチは違っていたが、
個人的には今までで一番の佳作ではないかと思った。
自然との共生、命の尊さ、宿命、といったテーマがスーッと体に沁みてくる。
少し解りやすすぎる展開に映画偏差値が高い映画ファンにはもしかしたら物足りなく感じられるかもしれない。
EXILEと共に製作してこのクオリティを創り出した監督の錦織。
支えたプロデューサーのHIROと共にに拍手を送りたい。
”生きる意味、生きる場所のある人間が一番強い”、
といった悩む者へのエールともいえるメッセージが理屈っぽくなく
伝わってくる。
「たたら侍」の評価すべき点は映像の美しさ・・・本物の画像、実写による撮影
などであることなどはもちろんなのだが、近年作られるどんな邦画にもない大きな点・・・。
それは、大スクリーンから伝わってくる”臨場感”と”迫力”。
個人的な感情や一人称で語られるアンニュイな内容は容易に表現できるが、今作のようなエンターテインメント作品で、その雰囲気を表現するのは難い・・・。CGや、カット割りでスピード感を出しているように見せることは簡単だが、生身の人間の動きだけでそれを演出するのはなかなか難しい時代。
たたら侍は黒澤明監督世代の香りを放つ映画に仕上がっている。
これが、凄い。
加えてEXILEHIROがプロデュースしたということはそのイメージさえも変えてしまうくらいのメガトン級のニュースではないか!!。
メディアが映画を作っているからなのか、大手がこのような迫力ある映画が作れなくなくなっているからなのか、やっかみなのか、何なのか・・・余りにもこの映画の中身を論じない。
マスコミもハリウッドで上映したのだの、コンビニがどうのだの
どうでも良い情報を垂れ流すのみで、一向にこの映画の真の価値を報じないのには憤ってしまう。
映画評論家も、CGだらけの漫画映画を結果的に非難することになるからだろうかと勘ぐってしまうほど触れる者はいない。
*この映画を映画評論家が評さないでどうする!?
こんな凄い映画をプロデュースする拘りがあるEXILE系のコンサートを一度見に行ってみたい、と思わせるぐらい挑戦的な映画。
この振り切れたエンターテインメント作品をEXILEが世に送り出した意味、EXILEの演技を見ればEXILEファンは誇りに思えるだろうなと思う。EXILEのチャレンジ魂や良し!である。
モントリオール世界映画祭での受賞は伊達ではなかった。
納得の一本。
映画評書いたのは初陣だが、書きたくなる稀にみる映画。
佐藤忠雄先生の評論は的を得ていた。
頑張れ!映画評論家!!映画コメンテーター!!!
キチンとした評価をすることでもっと凄い邦画が見たいものだ。
EXILEファンと思しき女の子たちが圧倒された様子で「なんかヤバい」と涙を拭っていたのが印象的だった。