「読み心地のよい短編小説のよう」うつろいの標本箱 issyさんの映画レビュー(感想・評価)
読み心地のよい短編小説のよう
映画『うつろいの標本箱』の試写会にて、一足先に鑑賞して参りました。
この映画は、新進気鋭の若手監督が、これまた新進気鋭のミュージシャンの楽曲からインスピレーションを得て、これまた瑞々しい可能性に溢れた役者さんたちと作り上げた作品。
ネタバレを避けつつ感想を述べるならば、読書の秋に観るにふさわしい「短編小説を電車の中で読んでいるような気持ちになる映画」でした。
あらすじ的なことは、公式サイトを参照いただくとして。
この映画で語られるのは、ごく普通の人たちの日常のワンシーン、のようでいて、そうでもない、ちょっと特別な出来事の重ね織り。
若い男女数人の群像劇、なんですが、みんながみんな、それぞれの暮らしの中で自分に正直に生きていて、なんとなくうまくいかないこともあるけれど、ちょっとだけ、前に進めたね、というようなお話。
小説を読むように、想像の余白が残されているのが、この映画の一番面白いところでした。
「短編小説を電車の中で読んでいるような映画」といったのは、小説の世界観にはまりそうになったところで、駅に到着してしまって、ふいに現実に引き戻される。そんなザワザワ感も楽しい映画でした。
そして、作品自体に対する感想を離れたところでいうと。
作り手の、作品に対する愛情がすごく感じられた映画でした。
表現することへの真摯な想いにあふれていて、
それが、作品全体の嫌味のない感じに、
きれいごとではいかない日常を描きながらも、どこまでも優しい人たちが紡ぎ出す穏やかな物語に昇華されていたように思います。
この時期に公開されてよかった。
「秋に観るに、ふさわしい映画」です。
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