「主要な配役以外は見どころあり!」鋼の錬金術師 曽羅密さんの映画レビュー(感想・評価)
主要な配役以外は見どころあり!
はじめて映画館で本作の予告を観た時はどんな酷い作品になるかと覚悟していたのだが、本作を観ると意外にもまともなことにびっくりした。
特にCGは本当に素晴らしいレベルになったと感心した。
弟のアルは全編に渡ってCGだというからその完成度の高さに驚く。
更にところどころでモーションキャプチャーを交えて実際の俳優との無理のない融合をはかったのだというから余計に唸る。
それもそのはずで本作の監督がCGの第一人者である曽利文彦だというので納得である。
筆者が曽利の実写作品を観るのは『ピンポン』『ICHI』『あしたのジョー』に続いて4作目である。
『ピンポン』における球の軌道や観客たちの動きなど細かいところへのCG合成は物語のテンポを加速させ作品の質を押し上げた。
その後も『ICHI』と『あしたのジョー』でも気付かないような細部でCGを使用するスタンスは変わらなかった。
日本を代表するトップクリエイターとして山崎貴や庵野秀明、樋口真嗣らとは違う方向性で日本のCGの発展を担ってきた1人だと思う。
ただ『ピンポン』の大成功でより大きな資金で作品を制作し易くなった反面で配役を縛られてしまったのか、以後の作品で特に主役選びで失敗している感がある。
筆者はラーメン屋で原作漫画の第1巻を読んだことがあるぐらいでアニメ版も全く観たことがないので、作品自体に全く想い入れがない。
本当に先ほど原作者の荒川弘が「ひろし」ではなく「ひろむ」という名前の3児を持つ女性であることを知ったぐらいである。
原作では全員日本人ではなく名前からしても西洋人になるだろうが、日本人が演じている違和感は観ていくうちに自然と気にならなくなる。
ブルーバックの演技以外は全編イタリアで撮影されたようだが、実写版『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』を観て案外海外を舞台に日本の俳優が演技するのも悪くないと思っていたので、原作の世界観自体が日本を舞台にはしていないこともあって全く問題がないように感じた。
これがエキストラに1人か2人でも白人や黒人、西アジア系が含まれていると変にひっかかってしまうと思うが、そこも全員東アジア系の顔をした人間を揃えていたので集中力が妨げられることはない。
はじめはハリウッドで白人を起用して映画化した方がいいのではないかなどと考え日本人の俳優起用に否定的だったが、本作を観ていて人間関係が純和風であるように感じたので、結局細部を含めると日本人にしか演じられないのかもしれないと思い直すようになった。
とはいえ、主演のエド役の山田涼介を観るのは『ナミヤ雑貨店の奇蹟』に続いて2作品目になるものの、彼の独りよがりでチグハグな演技は作品から浮いているように感じた。
グラトニー自体がキワモノっぽいので内山信二の配役は仕方ないと思うが、個人的に役柄に合っていないと感じたのは山田とウィンリィ役の本田翼である。
そして松雪泰子はやはりと言えばやはりだが、残酷でありながら妖艶なラストを見事に演じていたと思う。
また原作を知らないながらも小日向文世が黒幕なのは大体想像がついた。登場時からちょっと寛大すぎて怪しかった。
なお本作にはエンヴィー役で本郷奏多も出演しているが、最近放送されていたTVアニメの『いぬやしき』に小日向と本郷が主要なキャラクターの声優として参加していたために声をよく聞いていたのでタイムリーに感じた。
またどうしても馴染めない演技が1つある。
マスタング大佐役のディーン・フジオカと山田がやたらと熱血に叫ぶシーンが数回あるのだが、こそばゆく感じられるほど浮いている。
本田の「たった2人の兄弟じゃない!」の発言もそうだが、彼らに熱い演技は無理だと思う。
そもそも日本人は平均的に爆発するような感情表現は苦手だと思うが、彼ら3人からは余計に普段からあまり声を荒げたりしないんだろうな、と思わせる性格が垣間見えてしまった。
それに比べてこと熱血や切れた怒りの演技に関しては、日常生活からそういった場面が多いのか、お隣の韓国の俳優は総じてうまい。日本人にはかなわないと感じさせる。
余談だが、逆にそれが鼻についてうざくなってしまい筆者は韓国映画を一切観なくなってしまった。
日本人は怒る際も声を荒げない抑えたそれでいて毅然とした怒り方の方が得意だと思う。
先日宮島を訪れた際、奉納された大きな灯籠に漢族の親子が無遠慮にのぼって写真を撮る光景に出くわした。
あくまでもイメージになるが、やはり多情なアメリカ人なら中指を立てて「降りろ!このくそ馬鹿野郎!」ぐらい罵りそうだが、その場を目撃しても日本人は筆者を含めて誰もそんな態度は取らない。
引き潮のようにただ静かに怒り、ただ静かに軽蔑して冷めた視線を投げかけるだけである。
なお漢族以外であれば視線に気付いてやめる外国人もいるだろう。
筆者も日本人の中では空気の読めない方だと自覚しているが、そんな筆者でも「傍若無人」が良い意味になるくらいのスーパー空気の読めない漢族には敵わない。写真を撮り終わるまで親子が気付いて降りることはなかった。
なお、いっしょに写真を撮ろうと嫌がる鹿を押さえつけようとして逃げられる間抜けな親父がいるなど、他の外国人では見られない行動をして筆者を呆れさせたのは決まって漢族だった。
原作を読んでいないので何とも言えないが、どうしてもピーピー喚き立てる演技を日本人がすると不器用で滑稽になってしまうように感じる。
本作が原作への敬意がないのかよくわからない筆者の立場では意外に観られたというのが偽りない感想である。
続編も制作される可能性があるとのことなので、主要キャストが変わらないのは勘弁してほしいところもあるが、上映されるなら観に行くだろう。
それぐらいCGは必見であった。