「サメホラーとしては上出来!」ロスト・バケーション とみしゅうさんの映画レビュー(感想・評価)
サメホラーとしては上出来!
青い空! 青い海! 美女のビキニ姿! サメ!
三拍子どころか四拍子揃ったら、間違いなく面白く…なずはがないというか、安易というか、普通ならビデオスルー間違いないB級映画になるはずなのだけれども、本作はうまいことやってるなと思った。
主人公・ナンシーは医学生。家族は父と妹。母親を病気で亡くし、それが原因で父親とはぎこちない関係。
心の傷を癒やすために、かつて母親が来たことのある人里離れた秘密のビーチにやってくる(スペイン語圏の場所らしい)。
一緒に来た女友達は二日酔いで、ホテル待機。
というわけで、やむを得ず1人でサーフィン。
地元の若者2人と共に、美しい海でひとときを過ごす。
日の入りまでもうすぐ。
最後にもう一度だけ波に乗ろうと、ボートに捕まって会場で待つナンシー。
そしていよいよ、奴=サメの登場となるわけで…
サメって、確か血の匂いで獲物を見つけるそうで。
本作も、そのへんは抜け目なし。
ナンシーが出血する理由をつけているし、頼みの綱のサーフボードともおさらばさせて、不利な状況に追いやっている。
なんとか逃げ延びた岩場の上での止血措置は、観ていて実に痛そう。
このへんは、医学生という設定がちゃんと活きているし、「絶望的状況でも諦めない」という彼女の性格を映像的に表現するシーンでもある。
干潮を迎えて、サメの襲撃という目前の危機は遠のいたものの、夜の海は冷えるわけで、寒さとの戦いが始まる。
ウェットスーツ、バンザイ。
そして、サメはしつこい。
翌朝。今度は逆に日差しが敵になる。
周りは海水だらけだから、水分の補給は困難。
カニをかじってはみるけれど、栄養分は取れませんわな。
たまたま海辺で酔っ払って寝ていたオッサンが気づいてくれたものの、なにせ酔っぱらい。
足元はおぼつかないわ、彼女のバッグから金目の物は盗むは、水上に浮かんでいたサーフボードでいたずらに遊んだ挙句、哀れサメの餌食に。
本作、ほぼ唯一のグロ描写 (-_-;)
昨日出会った若者2人が再び海にやって来る。
大声で警戒するも、なにせ相手はスペイン語圏。
言葉はほとんど通じず、この2人も結局はサメに喰われることに…
満潮が近づき、焦るナンシー。
焦りつつも、サメの動きを冷静に観察し、30秒程度の「自由時間」が取れることに気づく。
その隙をついて、絶命した若者の1人が身につけていたヘルメット&アクションカメラ(GoProかな)をなんとか手に入れる。
もうすぐ満潮。岩場も沈み、サメが確実に襲ってくる。
泳いで1分ほどの場所にある無人ブイに行くしかない。
決死の覚悟をアクションカメラで録画し、唯一の望みを託して、カメラを再び海に投げ入れる。
運がよければ、浜辺に打ち上げられ、誰かが観てくれるかもしれない。
最後まで戦い、希望を失わないナンシー。
最近のアメリカ映画の女性キャラは、ほんと逞しくなっている。
覚悟を決めて海に飛び込むナンシー。
当然のように追ってくるサメ。
突然発生したクラゲの群れを隠れ蓑に、ギリギリのタイミングでブイに到着。
がしかし、ブイは腐食が相当進んでおり、サメの体当たりを食らって今にも壊れそう。
備え付けの照明弾も湿気にやられていて、まともに機能しない。
そして訪れる最後の決戦。
サメの激しい体当たりで倒れるブイ。
ブイを固定していた鎖と、その鎖をつないでいる海中のアンカーに目が行く。
腐食した鎖をブイから外し、アンカーへと潜っていくナンシー。
猛烈な勢いであとを追うサメ。
追いつかれる寸前で身体をかわすナンシー。
勢いがついて止まれないサメは、海中で鋭く尖ったアンカーの基礎部分に全身を貫かれ、絶命する。
一方、ナンシーが録画したカメラ&ヘルメットは、幸運にも浜辺に打ち上げれていた(このへんは映画的なお約束)。
地元の子どもが拾い、録画されていたナンシーのメッセージを目にする。
たぶん、この子は学校で英語を学んでいたのだろう(このへんも映画的なお約束)。
彼女の危機を悟り、慌てて家に戻る。
連れてこられた父親が目にしたのは、なかば力尽き海中を漂う、ナンシーの姿だった。
うつろな意識の中で、亡き母親の姿を見るナンシー。
母は病死したが、最後まで戦った。
母親の笑顔に勇気づけられ、ナンシーの意識が回復する。
それから1年後。
地元の海で、妹と共にサーフィンを楽しむナンシー。
家族の絆を取り戻したところで、エンドクレジット。
ナンシー=ブレイク・ライブリーのビキニ姿は、確かに美しい。
とはいえ、さすがに彼女の水着だけでは絵が持たないと思ったか、翼が傷つき飛べないカモメが海上での相棒となる。
飛べない鳥は、母を失い傷ついたナンシーの象徴でもあるのだろう。
映画内の時間経過としては、のべ2日間といったところか。
出血もしているし、水分もろくに補給できていないわけで、現実的ではあるかな。
それにしても、サメは賢いね (^_^;)
岩場の上に「獲物」がいることを理解しているわけで。
そんなところで時間を消費せずに、別のところで獲物を探せばいいじゃんか…と言い出したら、映画は成立しない。
そこは映画の嘘ということで、目をつぶりましょう。
ナンシーが医学生であること、海が好きでサーフィン&泳ぎが達者なところなどが、サスペンスの道具立てとして上手く機能していると思う。
グロ描写はほとんどないものの、ここ一番で「胴体を食いちぎられた男」の映像を挟みこむことで、「やっぱりサメ怖い」と印象付けている。
ビーチの場所を意地でも教えないのは、友人が捜索できないようにするためだね。
英語圏ではない場所を設定することで、コミュニケーション全般を不安定なものにさせているのも、細かいながら効果的。
90分という尺を飽きさせず構成できているのは見事。
海水浴シーズンを前に本作を観てしまうと、僕のように怖気づく人も少なからずいるかも。
まあ、でも、海は舐めてかかっちゃいけない場所であることも確かなので、教育効果もあるのかな。
というわけで、存分にハラハラドキドキできる映画でした。