「リアルなサバイバル劇」ノー・エスケープ 自由への国境 玉川上水の亀さんの映画レビュー(感想・評価)
リアルなサバイバル劇
「ゼロ・グラビティ」のアルフォンソ・キュアロンとその息子ホナス・キュアロンがタッグを組んで製作された本作では、砂漠を舞台にメキシコ不法移民たちと彼らを排除しようとする男との間でのサバイバル劇が心臓バクバクもののテンションで展開する。
トランプ大統領がアメリカとメキシコの国境に壁を建設すると宣言しているが、この作品で描かれた不法移民たちがあっさりと国境を越えている様を見ると、その「壁」発言の背景が理解出来る。
だが、この「壁」発言は強いナショナリズムと不寛容さに裏打ちされていると思う。
本作には、このナショナリズムと不寛容さを象徴するような初老の男が登場する。
彼は“相棒”とも呼ぶべき忠実な飼い犬と共に国境を不法に越えてきた移民を容赦なく駆逐していく。
その行動は倫理観に基づくというより、彼の憂さ晴らし、または“悪趣味”のように見える。
スペイン語の原題は砂漠を意味するが、舞台となっている砂漠の荒涼さがそこで繰り広げられるサバイバルの緊迫度を上げ、移民たちや彼らを追い詰める男のプロフィールをはじめとした説明的要素、過剰な展開や演出、そして台詞も極力削除して、水のない砂漠のように乾いたタッチでリアルにドラマが展開されていく。
砂漠というソリッド・シチュエーションで手に汗握るリアルなドラマを88分という上映時間に収めた本作は、ホナス・キュアロンの初監督作品とのことだが、父アルフォンソ・キュアロンと共に今後どのような映画を作っていくのか、この“親子鷹”に注目したい。
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