パリはわれらのもののレビュー・感想・評価
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空想的反ファシスト映画
世界の権力者たちは裏の巨大な組織によって操られているという噂。女子大生アンヌが試験もそっちのけでシェークスピアの演劇「ペリクリーズ」に参加することになるのだが、フアンというスペインの男が自殺したことを知り、アパートの隣人女性の言葉もあってその真相を調べ始めるというもの。
まずは兄ピエールに誘われたパーティにて、アメリカから亡命してきたピューリッツァ賞も獲得した小説家フィリップ・カウフマンと知り合う。マッカーシーの赤狩りの嵐から逃れてきたというからには、共産主義、もしくはそれを疑われた人物像なのだが、ストーリー展開としては政治色を全く感じない、何か影の組織に追われているというキャラだ。
演劇の舞台監督であるジェラールのことが好きになっていくアンヌ。そして劇団を辞めていく者多数という難局。それにはフィリップを匿っているテリー・ヨーダンという女性が何か秘密を持っていると確信する。単なるファム・ファタールじゃないかと、自殺者も単なる恋愛絡みと思わせながら、終盤になってようやく巨大な組織という言葉が登場するのだ。
1945年に“あの男”が死んで安心してたのに・・・などという言葉もあるので、政治家たちを操っているのはファシスト。それを殺人同盟、独裁同盟だと想像している面々。終盤に登場する映写会で「バベルの塔」という不気味な映像も流れ、全世界総収容所計画みたいな妄想も自殺者の中にはあったのだ。人類は一人の独裁者のための奴隷。神として君臨しようとしている人間がいるという恐ろしいほどの妄想。しかし、映写会ではそれを楽しむみたいな雰囲気もあり、フリーメイソンのような秘密結社をも想像させてくれる。
以上、何かしら政治的な台詞をかいつまんでみたのですが、気にしなければテリーが単なるファム・ファタールだと思えるストーリー。好奇心旺盛な女子大生が発端となり、やがてもう一人の自殺者が出る結果となったわけですが、兄ピエールが結局あちら側の人間だとわかりショックを受けるも、最後にはテリーがピエールを殺害することで虚しく終わってしまう。それにしてもアンヌ役ベティ・シュナイダーがキュートでコケティッシュ。エロいカットはないけれど、腋毛が眩しい・・・
この映画のパンフレットが欲しい!
海外でリリースされている英語字幕版のDVDを買おうか、と迷っていたときに、フランス映画祭2016での一回だけの上映があると知ったので、これは、万難を排して、観に行かなければ、と思い有楽町の劇場まで駆け付けた次第です。観客は8割程度でした。
内容はある演劇グループがシェークスピアの「ぺリクルーズ」を上演しようとしているところに、一人の仲間が亡くなり、その死をめぐって、主人公である女子学生があれこれ奔走する、というものです、ミステリー仕立ての作品かと思っていると、「実は地下で巨大な国際的陰謀が図られている」などという科白が飛び出し、とても一筋縄ではいかない全くユニークな作品に仕上がっています。当時の東西冷戦下に生きる人々の不安な心情を反映した作品でもあるようです。また、ゴダールはあくまで友情出演といった程度で、あまり重要な役どころではありません。映画の最後の場面、一群の水鳥が水面を飛び去っていく映像が妙に印象的でした。尚、字幕担当は寺尾次郎さんです。
このような作品が日本では未だにロードショー公開されず、日本語字幕のDVDも未発売とは残念でなりません。今年(2016年1月)、リヴェットが死去しました。「いとこ同志」、「大人は判ってくれない」、「勝手にしやがれ」と並ぶヌーヴェルヴァーグの傑作がこの国でも当たり前のように観ることができる日が来ることを切に願っています。
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