「一ヶ月の代打人生がくれたもの」ミス・ワイフ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
一ヶ月の代打人生がくれたもの
見る前は韓流ドラマによくある美人キャリアウーマンのサクセス×ラブコメかと思ったら、いい意味で裏切られた。
だって意外や、ファンタジーな設定。
父親は船乗りでほとんど家に帰らず顔も覚えておらず、海難事故死。母親はそんは父を思って病死。
早々と天涯孤独の身となったヨヌは、誰にも…特に男に頼らない生き方を選ぶ。その努力の甲斐あって、ソウル大を卒業し弁護士に。
勝訴率100%。が、ボンボンが起こしたレイプ未遂事件を示談にする、敏腕ではあるが高額報酬の悪徳弁護士になっていた。男に頼らない生き方が何と言う皮肉。
念願のNY転勤。39才独身だが、順風満帆の人生に思わぬアクシデント。
夜帰り道、居眠り運転の車を避けようとして…。
気付いたら、全く知らぬ場所。何かの役所…?
係員から説明。あなたは死にました。
…は? あの事故で…?
そんな筈ない! 何かの間違い!
そう。間違いなのだ。
ここはあの世とこの世の“中継所”。死んだ人がまずここを訪れるのだが、実はヨヌはあの事故でまだ死なない事になっていた。
手違いで死んだ事になってしまい…。ウォーレン・ベイティもそんな事あったね。
生き返らせて!…と懇願するヨヌに、所長のイという男が提案。『焼肉ドラゴン』の父親役で名演見せたキム・サンホだ~。
一ヶ月後に死ぬ予定の人間がいる。一ヶ月だけその人間の代わりに生きる。
そうすれば元の人生に戻れる約束を…って、なんちゅー条件。
元の人生に戻りたいヨヌは渋々承諾。現世に一応戻る事になるのだが…、
生き返ったら驚いた!!
かつては豪華マンションでリッチな暮らし。
ところが、狭いアパートの一室。ボサボサ頭によれよれの服、化粧っ気ナシ。
おまけに、夫に子供!?
以前のキャリアウーマンから程遠い、平凡過ぎる専業主婦に。
このファンタジー設定が面白味あった。
当然平凡過ぎる生活に適応出来ず。
ここは何処? 私は誰?…と、大騒ぎ。
人が変わったような妻/母に家族は困惑。
集合住宅のママ友たちとの井戸端会議にもついていけない。
前の人生に干渉してはならない。そうイ所長から厳重注意されたにも関わらず、不満が募って早々トラブルを。
“自分”のマンションに入って、カードで高い服などお買い物。窃盗で警察沙汰に…。
夫が来る。そしたら警察に、法を盾にして擁護。
ちょっと見方が変わる…。
夫、ソンファン。
平凡なサラリーマン。人懐っこい性格で、無駄にイケメン。法学校に通っていた。
当初は、あなたみたいに無駄に顔だけイケメンの男が大嫌い!…と罵るほど。ちなみに元の奥さんは顔に惚れて結婚したのに、ソンファンはショック…。
でもどうやら顔だけじゃなく、中身もなかなか頼りがいがある。何より妻をメッチャ愛している。
二人の子供。反抗期の姉ハヌルとまだ幼いハル。
こちらにはまだ手を焼くけど、元の人生に戻れるなら…。
まずは家族関係を改善。
家事や息子の送り迎え、娘に小遣い代として内職を手伝わせたり、少しずつ主婦業も様になっていく。
元々デキる女。やればソツなく出来るのだ。
これまでの人生に需要性が無かっただけで…。
家族関係も少しずつ良好に。
それ故、またまたトラブルを。
夫の上司家族らと会食を。ある都市開発。上司をコケにする提案をし、上司はおかんむり。不機嫌になった上司はヨヌをアマ呼ばわり。怒ったソンファンは上司を殴ってしまい…。
今後仕事上で何か煽りを食らうかもしれない。嫌みな上司だし。
案ずるヨヌにソンファンは笑ってポジティブに。
ヨヌの中で確かに何かが変わり始める。
お金や地位やリッチな暮らしとは違う、心満たされる何か…。
集合住宅のトラブルも弁護士の知識を駆使して解決。ママ友たちから尊敬を集める。
ハヌルに事件が。憧れの先輩の家に招かれるも、暴行を受け…。
学校に抗議。が、相手の男子はボンボンで、弁護士を雇って示談に持ち込もうとする。諦め様子のハヌル。
いたたまれなくなったヨヌはいったんトイレへ。自分がかつてそうだった。被害者の事など思わず、金の為に悪どい事を。何をやってたの、私…。
男子に堂々宣言。どんな手を使ってもレイプ未遂犯である事を言いふらし、後悔させてやる。男子をねじ伏せる。
脅しや暴力で逆に訴えられるんじゃないかと冷や冷やものだが、ハヌルの言葉が全てを物語る。カッコいい…。
ソンファンにもやはりトラブルが。上司に楯突いた事で突然の人事異動。上司に懇願するが、聞き入れて貰えない。再び弁護士の手腕を発揮。上司の不正を持ち出し…。ソンファンの危機を救う。
この生き方が欠けがえのないものに。
家族との幸せ。家族への愛情。当初からは信じられない。
ヨヌもいつの間にか…いや、自然と立派な妻/母に。
このまま、この生き方を…。
イ所長が現れ、期限が迫っている事を告げる。
本当の母親が交通事故で亡くなる事も知らされる。
夫や子供たちはどうなるの!? 夫や子供から家族を奪わないで!
だが、これはどうしようもなく避けられない運命。
運命はあまりにも理不尽な事態を招く。
ハルが失明の危機に。遺伝性。本当の母親からではなく、ヨヌの母親から。
解決の方法は…?
一つだけ。
ヨヌが当初の契約通り、一ヶ月を全うして消える事。そうすればハルの目は治る。
しかしそれは無論、家族との別れを意味する…。私(ヨヌ)がこの家族と…。この家族が母親と…。
ヨヌはハルの目が治る事と引き換えに承諾する。
期限の日。イ所長が迎えに来るが、最後にハルの手術の無事終わりと家族に別れを…。
今生の別れのようなヨヌにソンファンやハヌルはまた冗談かと思うが、今生の別れなのだ…。
そしてヨヌは元の人生に戻る…。
病院で目覚め、パジャマ姿のままあの集合住宅へ。
しかし、そこには別人が…。
私は夢でも見ていたの…?
それから一ヶ月。再び弁護士として活躍。今度は悪事や不正を暴く善良な弁護士として。
高級マンションからも引っ越し。その作業中、母親の遺品の中から見つけた写真。それに写っていた父親は、意外な人物…!
休暇を取ってニュージーランドへ。ニュージーランドで海難事故死した父親を弔う為に。
その飛行機内で…。再会する。ソンファン、ハヌル、目が治ったハルと。
が、彼らからすれば今のヨヌは全く知らぬ別人。が、ヨヌは涙が溢れる。
隣の席に。世間話を装って。何故ニュージーランドへ…?
妻が亡くなり、姉が住んでいるニュージーランドへ向かうという。
悲しみを乗り越え、新たな一歩を踏み出そうとする私の“家族”。
安堵か再会出来た喜びか、ヨヌの顔に微笑みがこぼれる…。
主演のオム・ジョンファは韓国を代表する実力派女優であり、“韓国のマドンナ”とも称される歌姫なんだとか。歌手としての活躍は知らないが、本作だけ見ても実力と魅力の持ち主だと分かる。
韓流ドラマなどで人気らしいソン・スンホンも好演。
ユーモアやハートフル、悲しさや切なさ、包み込むような感動…。
自分の見直し、再出発、家族愛…。人生賛歌。
ラストあの後、“他人”からまた“家族”になったら…いや、なって欲しい。そんな望みを込めたオチまで含めて。
ステキな作品だった。