「対象に没頭させてから」奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ masakingさんの映画レビュー(感想・評価)
対象に没頭させてから
ホロコーストからの生存者を招いて話を聴く場面が、最も印象に残った。生存者の感動的な話しぶりはもちろんのこと、話を聞いている生徒の表情がみるみる変化する様子に心を打たれた。あれは、演技ではなく素の体験をさせたのではないだろうか。
それと同時に、心に蘇ったのは、ここ数年で聞くようになった、被爆者の語り部にまつわる残念な話だ。修学旅行生が、語り部に信じられないような暴言を吐くことが増えてきたという。
この違いはなんだろうか。あのフランスの生徒だって、クラスが始まった時期は、ホロコーストの生存者に対して同じようなことをしていてもまったくおかしくなかったはずだ。
しかし、一点大きな違いに気付く。フランスの生徒たちは、生存者との対面の前に、徹底したリサーチを行い、調べる対象であるホロコーストの犠牲者への思いを高めているのだ。ゲゲン先生は、その機が熟すのを、待っていたのである。
修学旅行の引率者の先生方に問いたい。広島へ出発するまでの間、何を指導していましたか?学年集会を開いて、粗相のないように、何ていうお説教を垂れて、それで十分指導した気になっていたのではないですか?この映画を観て、自分たちの指導を振り返る機会にしてほしい。
と、だいぶ話が逸れてしまったが、生徒が変容していく姿がセミドキュメンタリータッチで描かれていて、教育に携わる者としては、変な感動を煽る作風でなかったことがかなり救われた。それでも十分感動的ではあるが…。
生徒一人一人の背景をもう少し丹念に描き、それを盛り込んで120分の作品にしてくれても、たぶん長く感じることなく観ることができただろうと思う。
人としての尊厳を奪われるホロコーストの悲劇と、生徒一人一人が自分の価値に目覚めていく過程が重なり、半世紀以上の時を経たカタルシスになっている作品のロジックも巧妙かつ爽快だった。