「それぞれの母の愛」LION ライオン 25年目のただいま chiiiiiさんの映画レビュー(感想・評価)
それぞれの母の愛
幼い頃、迷子になり見知らぬ土地に一人きりになってしまったサルー。
そんな彼が25年の時を経て、Google earthでかつて暮らしていた故郷を探し、家族に会いに行くというストーリーは事前に知っていました。
故郷を探すことがメインストーリーかな?と予想していましたが、幼少期のサルーがどうやって生活をしていて、どういった経緯で迷子になってしまったのか。
見知らぬ土地に一人きりになった彼が経験した様々な出来事。
この描き方がとても良く、とにかくサルー少年が可愛すぎる。
彼の真っ直ぐな瞳、純粋無垢な笑顔。
その全てが心から愛おしく思え、桁違いの感情移入をしてしまうほど。
この少年の他の出演作品が1つも関連作品に上がっていなかったことも驚きました。
彼無しではここまで高い評価を得る作品になっていなかったのでは?と思えるほど、彼の存在は大きなものです。
そして養父母との出会い。
何故白人夫婦が黒人の少年を選ぶのか疑問に思いましたが、そのあと明かされた真実がまた衝撃的でした。
幼い日の不思議な経験から、自分の役割を見出した養母。
異人種の子を我が子として育てること、並大抵の覚悟ではできないことだと思います。
幸せになる自信があった。
でも実際には上手くいかないことも多かった。そこもまたリアルだと感じました。
現実は思ったとおりにはいかないものです。
そして取り憑かれたように故郷を求め、来る日も来る日も地図を辿るサルー。
偶然見つけた見覚えのある風景から、記憶を辿りながら地図を追いかけていくシーンは特に印象的で、どんどん記憶の中の故郷に近づいていく高揚感のようなものが手に取るように伝わりました。
そしてようやくたどり着いた故郷で、実母と再会したシーン。
周りにどんどん人が集まっていたことで、実母がどれほど彼の帰りを信じてずっと待っていたのかがわかりましたね。
兄の死の真相は本編では語られなかったけれど、その分エンディングで明かされたときはとても重みがあり、涙が止まりませんでした。
サルーは完璧ではない。
故郷探しに囚われるあまり、目の前にいる恋人のことを蔑ろにしてしまう。
故郷を探そうと思ったのも、友人の発言があったから。
それでもこの作品がここまで完成度の高いものになったのは、やはり二人の母の大きすぎる愛があったからこそだと思います。
そしてこれが実話だということ。計り知れません。
ラストで実際の二人の母が出会うシーンが流れましたが、あの瞬間を見せてくれた演出には、ありがとうと言いたいです。
全て引っくるめて、とてもいい作品を観させてもらいました。