「命は儚く、生命は強い」ボヤージュ・オブ・タイム ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)
命は儚く、生命は強い
この作品だけでテレンス・マリック監督が意図することを感じ取るのは難しい。宇宙の始まりから地球の誕生、生命の営み、そして人類の行いへと大風呂敷を広げていく。ドキュメンタリーと呼ぶにはあまりにも説明不足であるし、ストーリーらしいストーリーも存在しない。けれども、私はこの映画に涙した。ラストのフレーズに永遠に続くとも思える生命の力を感じずにはいられなかったからだ。
分かったつもりのようなことを書いているが、私はマリックの作品が好きであり、これまでの監督作品は全て見てきている。その上でこの作品を見るからこそ、実は彼の作品は全て共通のテーマを描いていたのではないかと思えるのだ。故にこの作品を深く理解したいという人は、事前にマリック監督作品を見ておくことを強くお勧めしたい。特にデビュー作「地獄の逃避行」から「ニュー・ワールド」までの4作はストーリーも明快なので、かなりとっつき易い。
「ツリー・オブ・ライフ」は言うまでもなく、本作の前身と言える作品であったが、個人的には「シン・レッド・ライン」が本作の理解に最も分りやすい作品ではないかと思っている。この作品では戦争において人間たちは命を奪い合っている背景で、自然の中で命が育まれている様が描かれていた。「ボヤージュ・オブ・タイム」ではそのスケールを地球史レベルにまで拡大させる。自然界の中でも命は奪われる、生きるため、生き残るため、そして子孫を繁栄させるため…。弱肉強食という言葉が適切か?いや、最強と思われていた生物だって、天変地異などによって、脆くも消え去る時がある。その中で新たな命が生まれ、森羅万象というかの如く、また生命は続いていく。命は儚い、だが生命は強い、それを結ぶものは何か?その答とも言えるあまりにもシンプルなラストのフレーズを耳にし、私はますますマリック監督を好きになってしまった。