劇場公開日 2016年8月27日

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「憂鬱な世界を覚悟を持って生きていこう」ティエリー・トグルドーの憂鬱 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)

2.0憂鬱な世界を覚悟を持って生きていこう

2016年9月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

難しい

 勤めていた会社をリストラで追われた男が、再就職の為のセミナーや職業訓練を受ける。役所の担当者が勧める職業訓練は再就職の役には立たず、セミナーでは他の受講生たちに模擬面接での様子を酷評される。
 同じ中年労働者としては、見ていてひりひりするほどに辛い情景である。自分も同じ境遇になれば、これと同じ辛酸を舐めることになるであろうことは想像に難くない。
 サービス業志望でもないのに、面接中の笑顔や声の明るさなどをとやかく言われるシーンは居たたまれない。観ているこちらがカメラが早く次のカットに移ることを願わずにはいられないほど。人生の過去や背景などには全く興味を示されず、現在の標準とされる求職者像を求められてじっと我慢をする主人公の姿からカメラはなかなか目を逸らさない。それは、主人公の閉塞した心理を表現するというよりも、そんな彼の姿を観客に見つめさせるための長廻しに思える。
 後半になってスーパーマーケットの警備係になった主人公は、今度は今までの自分のような境遇の人々を追い詰める立場へと入れ替わる。
 同業者である私のモラルからすれば、ポイントカードや割引券の不正行為は立派な詐欺である。だから、不正を犯したレジ係が退職に追い込まれることは当たり前のことだと思う。
しかし、その被害金額の些細なことに比べれば、彼女たちレジ係の生活が破壊される結果はあまりに重大である。
 安心して生活を送れる立場にいるということが、常に不安定な状態の人々を生み出している。これが市場の原理であり、我々の生きている世界の現実なのである。
 その薄ら寒い現実をどんな形であれ生き抜くためには、何かしかの覚悟を持たなければならない。主人公の乗った車のテールライトが消えていくラストシーンにそんなことを思った。

佐分 利信