「彼らが本気で焼くときは、」彼らが本気で編むときは、 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
彼らが本気で焼くときは、
ベルリン国際映画祭でW受賞したのも納得の素晴らしい出来栄え。
土竜の唄でお馴染の生田斗真が正反対のLGBT女性リンコを演じる。
荻上直子監督5年ぶりのオリジナル作品は、海外生活や出産を経て
彼女の変化が伺える作品になっていた。作中で様々な母親を登場
させているが、リンコを含めてどの母親も個性豊かで其々が違う
考えの持ち主。自分と違う感性を持つ人への悪意と偏見。なにを
された訳でもないのに徹底して差別や中傷に走る人間の愚かさを
見せる一方で、我が子我が身オンリーで突っ走る人間も多数いる
ことを見せてさらす。本作で自分はこんな人間になれるだろうか、
あるいはこんな人間になってしまわないだろうか、もし子供なら
どんな母親に愛されたいかなど色々考えさせられてしまうだろう。
しかし監督はラストの選択にもあるように母親らを糾弾はしない。
絆は絆として、それが理不尽だろうと不幸だろうと個人が背負う
業になるのだから受け止める。そのうえで広がる可能性や選択肢、
例えばリンコがこの先「養子」を迎えて本当の母親になれる未来
や、トモが母親を支えながら自分自身で自立することを明示する。
監督自身が誰も差別していないのだ、弱さを抱えた愚か者でさえ。
あの「煩悩」108本の存在が忘れ難く心に残った。子供に真正面
から向き合える母親は凄いし包み隠さず話せる母親も素晴らしい。
性がどういうもので何故そうなるのかを早い段階で理解するのは
その後の責任に繋がるから恥ずかしいことでも忌むべきことでも
ないことを日本人も大らかに語れる段階にきてるんじゃないかと
今作を観て感じた。何より家族円満って本当に幸せなことだから。
(父性や母性も人それぞれ。向き合って受け入れることからだね)