「松山ケンイチと東出昌大の顔相撲」聖の青春 ヒートこけしさんの映画レビュー(感想・評価)
松山ケンイチと東出昌大の顔相撲
感動した。難病ものとしても「感動の実話」としても幾らでも御涙頂戴に出来たはずなのにそこに堕することなく勝負の世界に生きた男として村山聖を描いたことこそに。本作は事実を羅列するのではなく真実を描くことに挑んで成功した(と村山聖を知らない者にも思わせるだけの力がある)!
音の演出が素晴らしい。例えば冒頭。上段者同士の対局のシーンでは静寂と力強く駒を一つ一つ打つ音で緊張感を高める。対して大部屋では奨励会の棋士達が駒を打つ音が地鳴りのような音を響かせる。素人が抱く「娯楽としての将棋」のイメージと「勝負としての将棋」の違いを音だけで感じさせる
クライマックスの村山聖と羽生善治の対局はもはや「顔相撲」だ。将棋が分からなくても松山ケンイチと東出昌大の表情だけで勝負の熾烈さが伝わってくる白眉の名シーン。最後の涙の気高く哀しいことよ…あの涙だけで本作は俺の記憶に残り続けると思う。間違いなく東出昌大はキャリア最高の演技を見せた
北野組でもお馴染みの柳島克己というだけあって撮影も素晴らしくてなあ。一つ一つの画が美しい。特に旅館での対局中に窓の向こうで中庭の明かりが灯るシーンは芸術映画かと思うほど
ファーストカットは桜の木でラストはセミの鳴き声。村山聖もそれらのように儚い男だった…という演出はベタかもしれんけどいいよな。ベタはいいものだ。ただセミを映してもよかったかもな
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