「どこまでも善人な若き国王と作り込まれた話」ブラックパンサー galaxymilkywayさんの映画レビュー(感想・評価)
どこまでも善人な若き国王と作り込まれた話
米国や他の国を初めてとして、前評判の良いブラックパンサーを今回観てきた。
今回の舞台は、アフリカ大陸にある国、ワカンダ。表向きは農業国だが、裏側ではアメリカのはるか上を行く、最新テクノロジーを使用した超文明国となっている。
主役は「シビル・ウォー」にも出演したワカンダの王子ティ・チャラが、自国で亡き王(ティ・チャラの父親)に代わり、新国王になる話から始まっていく。
そして、その裏側ではティ・チャラの叔父の子供、つまりは従兄にあたるキルモンガーがワカンダにある理由から復讐に来る話が書かれている。
どこまでも善人な人柄であるティ・チャラは平和な国のワガンダ王として相応しくも見えるが、その優しさや脇の甘さから、キルモンガーに殺されかけ、更に王座を奪われるという大失態を起こしてしまい、今まではまとまっていた5つの部族は大混乱、部族同士の争いとまでなってしまう。
しかし、ジャバリ部族のトップ、エムバクによってティ・チャラは庇護され、奇跡的に残っていたハーブのおかげでティ・チャラはなんとかブラックパンサーとして復活を遂げる。
部族間の争いの中、ティ・チャラとキルモンガーもそれぞれのブラックパンサーのスーツを身に纏って1対1で争うが、一瞬の隙でティ・チャラの勝利、キルモンガーは重症を追ってしまう。
その後ティ・チャラと深手を負ったままのキルモンガーは『ワガンダの美しい夕陽』を見に行く。恐らく動けないキルモンガーをティ・チャラが連れて行ってやったのだろうと推測する。
「治療をすれば治る」ここでもまだ自分を殺そうとした相手に優しい言葉を投げかける善人ティ・チャラに対し「殺してくれ」とキルモンガーは彼の好意を簡単にも蹴ってしまう。ティ・チャラは彼の意思を尊重したのか、夕陽を見たまま亡くなったキルモンガーを見守る。
個人的な思いではあるがキルモンガーの「死んだら海に流してくれ」という言葉、ティ・チャラは必ず彼を丁重に海に埋葬すると思われる。
またこの映画は勇敢な女性陣の活躍も目立った。ティ・チャラを慕う家族や側近ズリ、元恋人ナキア、女性だけで作られた親衛隊長のオコエ、その中でも妹であるシュリが彼のサポートとしていい動きが目立った。この国のテクノロジーはほぼ彼女によって発明され、作られているものだと思う。
物語は国連でティ・チャラの演説「これからはこの文明を皆さんと分かち合いましょう」という台詞に対しワガンダを知らない国に「農業国と何を分かち合うのですか?」と言われるシーン、シュリと2人でキルモンガー親子が住んでいたと思われる集合住宅を買い取り、側で遊んでいた子供に「おじさんだれ?」と
話しかけられるシーンで幕を閉じる。
前国王に殺された弟の子供の復讐劇というどこにでもありそうなテーマなのだが、そこから話を広げ細部までよく作られている良作だった。
映画冒頭に父が子にワガンダの事を語るシーンがあったが、あれはワカンダに住んでいる幸せなとある父子の物語と思ったし、1992年に前国王が実の弟を殺してしまうシーンは最初、前国王の若い頃なのがティ・チャラなのかと思ってしまい、理解するのに少し遅れてしまったが、それも観客をミスリードさせるいい演出。
そして「シビル・ウォー」ではあまり融通の利かないティ・チャラかと思いきや、この作品では善良つつ近しい人達には普通の青年と同じ様な言動や態度にも親近感が持てた。
日本語吹き替え版では分からなかったが、英語版ではアフリカ英語で話しているというこだわりの点も評価したい。
最後に、同じく「シビル・ウォー」からの出演で、冷凍睡眠中だったバッキー・バーンズがエンドロール後にカメオ出演した。冷凍睡眠からもう既にシュリの手で、ヒドラのワードを解かれ目覚めた後だったらしく、村らしき所で療養中だったと思われる。バッキーのシュリに対しての「ありがとう」という簡単な一言でもまだ、彼の中では『ワード』は解かれもうウィンター・ソルジャー化する事はないが、彼の喜怒哀楽という感情面はまだまだ戻ってはいないものと個人的には憶測するし、彼には精神面のリハビリが必要である。しかし彼の今後を心配していたファンにとっては嬉しいシーンだったろう。