「空中戦が素晴らしい」ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
空中戦が素晴らしい
2D 字幕版を鑑賞のつもりだったが,時間的に吹き替え版になってしまった。スピンオフ作品ということで,Ep.3 と Ep.4 の間(というよりほとんど Ep.4 の直前)を補完する物語である。このシリーズの版権がルーカスの手を離れてディズニーに移ったお陰で作ることができた作品といえるだろう。ルーカスは Ep.7 以降を作る気がなかったと言うし,Ep.1〜3 では世界観がかなりおかしくなってしまっていたので,ファンにとっては有難い展開だといえるのではないかと思う。
映像は,とにかく見事であった。3D 版を見てみたいものだが,生憎私の地元では 3D 版の上映はないらしい。特に,空中戦の見事さは全シリーズを通じてもトップクラスではないかと思う。見事にファンの心を掴んでいた。流石は,STAR WARS に魅了されて映画の仕事に就こうと決めたと言う監督の作品らしい。いかにもファンが作ったという作りが隅々まで見えた。デス・スターの破壊力を,破壊される側から見せた映像というのにも非常に痺れた。また,シールドを破壊するための方法とその映像には鳥肌が立った。
脚本は,よく頑張っていた方だと思う。ナンバー付きの作品から出て来ていたのは,ほぼダース・ヴェイダーだけであり,キャラの約束事がほぼ皆無という状況である。従って,主人公の生い立ちから話を始めなくてはならなかったのだが,前半はかなり平均的な出来で,主人公の親子関係もフラグを立てる目的以外は,かなりありがちのような気がした。しかしながら,主人公の物語が一段落してからの牽引力はまるで別の映画を観ているかのようで,最後に向けての畳み込みは素晴らしいばかりだった。Ep.3 の結末を想起させるヴェイダーの住まいや,Ep.4 でオビ・ワンにやっつけられるチンピラ宇宙人が出て来たりと,このシリーズのコアなファンに向けたサービスシーンも多く,ファンの気持ちに沿った作りだったと思う。
役者は,主役のジンを「インフェルノ」でトム・ハンクスの相手役だった女優が演じていて,かなり好演していたと思ったが,何と言ってもデス・スターのターキン提督の出現にはビックリした。Ep.4 でこの役を演じていたピーター・カッシングは,シャーロック・ホームズからフランケンシュタインまで演じた名優であったが,既に 20 年以上前に亡くなっているのである。勿論,これは CG で作り上げたものであるが,人間を CG で描く技術は,以前から比べて格段に違和感がなくなっている。声は過去の出演作からサンプリングして合成したのではないかと思われる。このやり方は,かつて CAPCOM が「鬼武者2」というゲームで松田優作を蘇らせたのと同じ方法で,ゲームと映画の違いはあっても,技術の進歩は凄まじいほどだと実感した。提督で驚いていたら,最後にもう一人までが昔の姿で出て来てビックリした。また,ヴェイダー役のクレジットに,生身用,スーツ用,声用の3名の名前が並んでいたのには笑った。
音楽は,ジョン・ウィリアムスではなく,ミッション・インポッシブルやジュラシック・ワールドなどを手がけたマイケル・ジアッキーノであった。まず,冒頭のあの有名過ぎるテーマが流れて来ず,宇宙船のように文字が流れて行く場面がなかったのには,かなり肩すかしを食らった。スピンオフという立場上の措置なのかも知れないが,率直に言って非常に物足りなかった。エンドタイトルでやっと流れるのだが,やはり冒頭で流れないと世界観を作りにくいのではないかと思った。劇中の音楽は,ウィリアムスが書いたテーマと,今作のためにジアッキーノが自作したテーマが交錯していたのだが,新作のフレーズはかなり稚拙に聞こえてしまい,結果的に力量の差が歴然としてしまったような気がする。
演出の出来は,映画の前半と後半でかなり異なる。後半のような演出ができるのであれば,前半をもうちょっと何とかして欲しかったというのが率直な感想である。今作で初めて出て来たキャラは,メインのシリーズに比較するとやや弱い感じを受けたが,いずれのキャラも今作にしか出て来ることができないという事情を考えれば,やむを得ないような気がする。そんな中で,今作で初出のドロイド K-2SO が非常に魅力的であった。BB-8 などより遥かに魅力的だったと言えるだろう。通信するのが困難なほどのデータが,あんな小さなメディア1枚に収まるというのもちょっと笑ってしまったが,ラスト近くのヴェイダーの大暴れは見応えがあった。もう一度観に行けば,もっとサービスネタが拾えるのではないかという気がする。
(映像5+脚本4+役者5+音楽4+演出5)×4= 92 点。