「ノーラン作品には珍しい」ダンケルク カンワさんの映画レビュー(感想・評価)
ノーラン作品には珍しい
ノーラン監督の作品は万人に進めやすい映画だと思っていた。ヒーローものやミステリー、SF から家族愛までいわゆるエンターテイメント要素を取り入れたものが多い。誰が見てもそれなりの評価をくれるような題材で万人受け抜群だと個人的には感じる。しかしダンケルクでは今まであったエンターテイメント要素がことごとく除外されている。
物語は戦争に臨む三者の視点から描かれる。戦いに敗れ撤退を強いられる陸軍兵士、その撤退を支援する空軍戦闘機乗り、そして民間船で撤退に協力する非戦闘市民。陸と空と海を巡るこの撤退作戦が本作品の主題となっている。
撤退作戦は苦難の連続で登場人物は常に難題に悩まされる。しかしそこにドラマチックな展開などは起こらず、ただ美しい空や海を背景に淡々と流れていく。主要人物三者を視点として描かれている、かといって各々の人となりがわかるような描写もなく感情移入もしにくい。ただ戦争に臨む三者を写しているにすぎない。あえて客観的に彼らを描き、現象をそのまま映像にしている。
写実的に戦争を見せ人間的な感覚、感動は最低限に納められている。そのなかで開放的な空と青々とした海、荘厳で美しい自然が一際目立つ。自然の前でいかに人間の争いごとがちっぽけなのか、見せつけるかのように空と海が広がる。
正直今までのノーラン作品とは別物と考えて見たほうがいいと思う。過去作までのノーランらしさは最期のシーン、それでも人間の暖かさを感じさせるシーンくらいだと思う。