「クリストファーノーランというネームバリュー」ダンケルク オレさんの映画レビュー(感想・評価)
クリストファーノーランというネームバリュー
第二次世界大戦最中の1940年、ダンケルク海岸にてドイツ軍に包囲されたイギリスなどの多国籍連合軍40万人余りが取り残された。
四方から襲い来る銃撃、広範囲に及ぶ空爆に苛まれながらも必死に逃げようと生きようともがく若き兵士たちとそんな彼らを救おうと行動を取った小型船に乗り込んだ民間人らと英国空軍らを描いたノンフィクション作品。
次作を最も期待されている映画監督と評されるクリストファーノーラン。
傑作インターステラー以来3年ぶりの新作は初の実話かつ戦争映画。
各方面から最高傑作と評される下馬評に公開前からファンだけでなく、おおよその映画好きが注目していたであろう2017年の最注目の一本。
なかなか意見の分かれる作品だった。
初見は公開前日の金曜深夜0時からスタートした新宿ピカデリーでの爆音上映だった。
1本目に今作、2本目にインターステラー、3本目にインセプションと超ド級の情報量を朝まで視界に詰め込み、その日は帰宅して寝る以外何もできなかった笑。
そういった環境で観たからというのもあるがまず音の迫力に痺れた。
冒頭ドイツ軍によってばら撒かれた降伏勧告の用紙が散らばる音のみの静かなスタート。
言葉少なに味方の軍に合流しようとする若者たちを突然の銃声の嵐が襲う。
心臓を掴まれたかのような臨場感。この時点で手汗がだいぶやばい笑。
毎回のことだがノーラン作品は効果音のボリュームがエグい。
今作は特にそれが顕著で爆撃機が接近する轟音、次々と投下された爆弾が接近してくる爆音などがやり過ぎなくらいな音量と音圧で襲いかかってくる。
さらにはこれまたノーランお得意の時系列シャッフルも健在だ。
海岸に取り残された若者たちの防波堤での1週間、政府の要請を受け勇敢にもダンケルクへと向かう小型船の民間乗組員の1日、戦闘機スピットファイアに乗り込み戦場のダンケルクへと向かう空軍の空での1時間と3つの場面をそれそれの時間軸で描く複雑な展開でそれぞれの戦いや葛藤を描く。
冒頭では詳しく時間描写がないためわかりづらいかもしれないが後半になるにつれそれぞれの時間が重なり合っていく展開は見事。
その2点も去ることながら今作でもう1点特徴的なのが最後の最後まで主人公たちは逃げて逃げて逃げるだけの展開だということ。
トムハーディら軍人を除けば、ダンケルクの若者たちも小型船の民間人もみなほぼ丸腰。
絶体絶命のピンチに助けてくれる様なヒーローやご都合主義的な展開は一切なし。
みな海水でずぶ濡れになり終いには重油にまみれ体はボロボロの上に、生き残るために仲間から囮を出そうとする醜い本心すら見えてくる始末。
しかしその醜いほどの生々しい人間らしさと何としても生き残ろうとする姿にどこか勇気を感じさえもする。
事実この戦いで33万人もの人間を救出できたことを各メディアは奇跡と称し、困難に屈しない誇り高い精神をダンケルクスピリットと呼ぶほど言葉が生まれるほどに大きな出来事だったらしい。
戦場に取り残されたほとんどの兵士が若くて未熟な兵士であったという事実からあえて無名な若手俳優を起用し、当時の戦場の臨場感を出そうしていたようであまりキャストの面では大々的な作品といった印象は受けない。
また各キャラクターのバックグラウンドや性格がまったく読み取れないほどに情報量が少なく、ただ戦場から逃げ出す兵士たちと救おうとする人々の集まりといった印象しか持てず共感出来ないという意見が多いよう。
逆を言うとクリストファーノーランというネームバリューだけでここまでの動員力と一定の評価を獲得できる力があることの証明になっている。そういう意味では彼のキャリアの中でも重要な作品かもしれない。
自分はやはり劇伴の存在感が圧倒的であった為、満足して観られたなと思う。
またラストのトムハーディがこれでもかと言わんばかりに美味しい役かつカッコ良かった為、拍手を送りたいと思う笑。あの状況で胸張って真っ直ぐ前を見つめられる精神力が欲しい笑。
ノーラン常連のマイケルケインが不在でとうとう記録が途絶えてしまったか、、と思った数日後にノンクレで声のみでの出演をしているとの情報が入り、よかったとホッとしたあの感情は一体何だったんだろう笑。
本腰でオスカー戦に参戦しにきたようなタイミングと内容でいよいよクリストファーノーラン初?の監督・作品賞を狙えるのではないかと期待は高まる。
アカデミーのクセの強さはここ数年で知ったから実際のところは読めないがアカデミー好みそうな内容なのではなかろうか。
2017年09月08日(金)1回目@新宿ピカデリークリストファーノーラン爆音上映
2018年02月18日(日)2回目@早稲田松竹