「三代に渡る秘密を持った女性たちの物語」ミモザの島に消えた母 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
三代に渡る秘密を持った女性たちの物語
ことし40歳になるアントワン(ロラン・ラフィット)は、半年ほど前に離婚したばかり。
別れた妻と妹のアガット(メラニー・ロラン)が職場の同僚という少々ややこしい関係だ。
アントワンには思春期の娘ソフィー(アン・ロワレ)とも、どうもしっくりいっていない。
そんなこんなで、精神状態は、やや不安定で、セラピーにも通っているが、一向に改善しない。
というのも、以前から心を占めているのは、30年前に亡くなった母のことがあるから。
母の死に釈然としないものがあり、父親とも祖母とも関係がうまくいっていない。
不信は募るばかりで、改めて、母の死について調べてみたが・・・というハナシで、家族の秘密にまつわる、ちょっとしたミステリー映画。
ちょっとした、と書いたのは、いわゆる推理もののようなミステリーではないからだけれど、謎的要素はふたつほどある。
<以下、ネタバレ>
ひとつは、若き日の母親の行状。
もうひとつは、母親の死に、誰がどのようにかかわっていたのか。
ひとつめが、すこぶる興味深かった。
アントワンとアガットというふたりの子どもを得ていながらも、夫と姑との軋轢(というか、ほとんど被支配的情況)のなかで、若き日の母親は英国女性と恋に落ちるのである。
1980年代といえでも、閉鎖的な環境の中での、女性同士の恋・・・
それだけならば、ふーん、そうなのかぁ、といったところなのだが、この恋愛に対する感情が家族の中で、どのようになったのかが、非常に興味深い。
映画の中で、アントワンの娘ソフィーも同性愛志向であり、そのことを父親のアントワンに打ち明けられないことから、父娘の関係がギクシャクしているのは明示的に描かれている。
それだけではなく、大きく描かれないが、妹のアガットにも、その傾向がある。
(なかなか彼氏と長続きしない、ソフィーの同性愛相談に乗る、母親の形見の指輪をアントワンから贈られる、といった描写がある)
つまり、母、娘、孫に秘められた「女性の秘密」なわけである。
その源となる母親の死の直前に、母親の決定的瞬間を目撃するのが、幼いアガットだというあたりも、すこぶる興味深い。
このひとつめの家族の秘密がわかってからの後半、映画は面白くなっていくのだけれど、そこへ至るまでが、かなりもたもたして、観ていて興ざめしてしまう。
というのも、前半が、40男のアントワンが、陰鬱な顔をして、母親の死の秘密を探求するのだが、ロラン・ラフィットに深みがなく、ただただ陰鬱な顔をしているだけで、観ていて気が滅入ってしまうからだ。
ひとつめの秘密がわかるのが、ほぼ映画の中盤あたりなので、もっと早めに明らかにして、女性三代(祖母も入れると四代か)の物語が屹立していけば、もっともっと面白くなったのに、と残念。
そして、もうひとつの謎、母親の死に、誰がどのようにかかわっていたのか。
これについては、書かない。
邦題にある「ミモザの島」=ノワールムティエ島と本土を結ぶ道、塩の満干によって現れたり消えたりする道、それがうまく使われていることだけを記しておきます。
ちょっと残念なところはあるのですが、メラニー・ロランが結構好きなので点数はオマケ。