「「全部、上手くいくさ」と無関心だからこそ楽観的なことが言える。」誰のせいでもない さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
「全部、上手くいくさ」と無関心だからこそ楽観的なことが言える。
妙な気持ち悪さが残りました。
『誰のせいでもない(2015)』
原題 Every Thing Will Be Fine
※一応、全体的なストーリーの流れを書きます。
けれど、監督の制作意図が良く分からないので、ネタバレになるかどうか判断できません。
すみません。
(あらすじ)
カナダの雪深い田舎町。
スランプの作家トマス(ジェームス・フランコ)は、ソリに乗った幼い男の子クリストファーと軽い接触事故を起こします。
男の子が怪我をしていなことに安堵したトマスは、抱きかかえて彼の家をノックする。
しかし、出てきた母親ケイト(シャルロット・ゲンズブール)は、もう一人の息子はどこか?と不安げに聞いた。
実はソリにはもう一人、弟が乗っていたのです。
「誰のせいでもない」事故が、トマス、ケイト、クリストファー、トマスの妻サラ(レイチェル・マクアダムス)、新しい妻アン(マリ=ジョゼ・クローズ)の人生を、変えていく。
的なお話でいいと思います。たぶん。
いや、よく分かんなかったんですよ。話の流れは分かりますよ、けど監督の意図がよく分からなかったんです。
監督がビム・ベンダースです。
ええ、皆さんお好きな"パリ・テキサス"とか"ベルリン・天使の詩"の監督さんですよ。
で、本作は3Dらしいです。
でも、内容的にどう考えてもミニシアター向けの内容だと思うので。3Dで観た方、殆どいないんじゃないかと推測いたします。
3Dにする意図って、やっぱ観客に手を伸ばさせたい=その世界に入りたいと思わせる。より、物語に入り込むものだと思ってました。
このあらすじまんまの、のろのろストーリー(キャメラワークが意図的にのろいっす)を3Dにしてどうするんだ?という。
しかも、入りたくないので(笑)その世界に。
またまた自分語りになるんですが、私は某損保にいたので、交通事故って年間1000件くらい対応してたんですよ。
恐らく一般の人よりは"交通事故"がどんなもんなのか、理解してると思います。
本作では「(事故は)誰のせいでもない」と登場人物達が口々に言い、母親ケイトは「貴方のせいじゃない。貴方(トマス)の為に祈ったわ」と聖書を渡し、尋ねてきたトマスの膝に頭を預けたりする。
トマスはトマスで一時期は酒におぼれ、結果的に自殺未遂を起こすも、悟りを開いたのか?常に冷静で、薄ら笑いを浮かべるようになります。
献身的に支えたサラから逃げ、新しい奥さんと結婚し、けれど小説はヒットし、兄クリストファーはファンになったと現れる。
このストーリーの流れは、私が知っている交通事故、そしてその後のことからは、大きくずれていました。
みなさん、こんな達観してないですよ。
ベンダース監督、一度お子さんが事故に遭ったお母さんと話してみるがいいさ。
と思いました。
唯一、事故が大きく精神面に影響を与えたと思われるクリストファーは、歪んだ憧れをトマスに向け、家に忍び込んでベッドにおしっこしたりする。
けれどそんなクリストファーの行動にも、トマスは薄ら笑い(達観したような表情)を浮かべ「度胸があるな」とハグしたりする。
常にトマスは薄ら笑いを浮かべ、ケイトは泣き続け孤独に生きる。
アンはそんなトマスを気味悪いと思う瞬間あれど、結婚生活を続けまぁまぁ幸せそうにしている。連れ子は懐いてるし。
唯一、感情の乱れを隠そうとしないサラも、再婚して子供に恵まれ幸せそうだ。
ハートフルっぽいラスト、しかし、始終流れる不穏な音楽。
トマスの薄ら笑いにて、終了。
原題 Every Thing Will Be Fine
全部、上手くいくさ。
いや、いかないよね!?
だれも感情を露わにしない。冷静で、達観していそうだけど、それがいつか爆発しそうな不穏な雰囲気。不安感を煽る、音楽。
登場人物の揺れ動く感情を、3Dで表現したと思われる一文がキャッチにありますが。
みんな冷静ですからねー。
で、3Dが観客を物語に引き込む為だったとして、この世界に一番遠いところにいるのが「全部、上手くいくさ」と無関心だからこそ楽観的なことが言える監督のような気がしました。
3Dであれば、何か発見できたのかもしれないですけど。
予告で、サスペンスフルな内容だと勘違いしたのが、よくなかったのかも。
なんか、もの凄く気持ちの悪い映画でした。