「70年代ロンドンパンクと共振するバラード」ハイ・ライズ 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)
70年代ロンドンパンクと共振するバラード
WOWOWで放送されていたので見てみた。うーむ、なんじゃこりゃあw
原作のバラード作品を小生は何十年も前に読んでいるのだが、内容はすっかり忘れてしまっていた。こんなにつまらない話だったっけ…??? まあ、バラード作品を読む楽しみは、華麗な比喩に満ち満ちた晦渋な文体に幻惑されることにあるともいえるから、自ずから映画とは違うけど。
ハイライズ(高層マンション)の中で最上階は王族並みの暮らし、その下の層は貴族風の衣装でパーティ漬け、下層は借金まみれでひいひい暮らしてるのに子沢山…って、こりゃあまりにあからさますぎる英国階級社会の比喩だよなあ。
上流階級いや上層階層の住人たちは下層の連中を思うがままにいたぶって、下層の子供をプールから追い出したり、電気の使用量が多すぎるからと停電させたりして、医師の主人公だって下層だから小馬鹿にされている。
それに対する下層住人の鬱憤がたまり、停電を機にいっきに爆発。その後、人間の内部に潜む動物的本能が目覚め、文明的なものを次々に廃棄し、原始生活を謳歌し始めるというのが主なストーリー。とてもありえない設定と展開と人物たちではある。ただ、それでクダラナイ、つまらないと言ってしまってはおしまい。
原作の発表は1975年。怒れる若者たちから10数年を経て、セックス・ピストルズ等のパンクムーヴメントが燃え上ったのと機を一にする。そのイギリス社会の比喩が原作の執筆動機じゃなかったろうか。
とすると、バラードはパンクをこんなふうに、文明否定にまで押し広げた形で影響を受けたのかもしれないなあ。上海の焼け跡の終戦体験や原爆の爆発目撃以来、世界の終末が大好きな人だからなあ…というような興味は湧く。
残念ながら、それ以外には何もないかな。
追記)
最後のサッチャーの演説(確認できないが)の意味するところは、「揺り籠から
墓場まで」国民の面倒をみた挙句、英国病に陥った国の社会国家政策を批判する
趣旨で、要は国家が企業経済に過度に関与するなという内容。
それを作品のラストに持ってきた意図は監督のバラード愛、つまり無政府主義=文明否定=人類の終末を愛する気持ちを込めたものと受け止めた。