ブルゴーニュで会いましょうのレビュー・感想・評価
全26件中、21~26件目を表示
ワイン版「夏子の酒」
ずいぶんと懐かしいたとえを出してしまったが、ワイン版「夏子の酒」とでも言いたくなるような感じのストーリー。実家を出たはずの息子(著名なワイン評論家)が、父親が営むワイナリーを立て直すために実家へ帰り、新しい(というより原点回帰)やり方で素晴らしいワインを作り出す、というハートウォーミング・ムービーだ。
ただ、この映画に関しては、テレビドラマ的というか漫画的なご都合主義が付いて回ってどうしても気になった。主人公はずいぶんとあっさり実家に戻ってくるし、葡萄を育てる七転八倒ぶりも実に甘い。シートを張って嵐から守るやり方こそ失敗に終わったものの、収穫時期は正確に判断できたし、なんだかんだで巧いこと失敗なくいい葡萄が作れてしまっているあたり、なんだか物足りない。それで結局一年目で素晴らしいと絶賛されるようなワインが作れてしまうというところにも、腑に落ちない部分が残った。
一番は、葡萄を育て、それを一級のワインに仕上げる、という作業の大変さやこだわりのようなものが、映画から感じられないところだろうか。ワイン造りの難しさ、奥深さ、そして感じる充実感と達成感、みたいなものがこの映画には決定的に不足していたように思った。その代わりに描かれるのが、幼馴染とのロマンスというのはあまりにも頼りないし、こういうところが実にテレビドラマ的で面白くない。頑固な父親との関係も中途半端だ。
ただこの映画のワインのテイスティングのシーンはよかった。テイスティングという視覚的には実に地味な作業を、とてもアグレッシブに撮影していて、映画で人々がワインを口に運ぶシーンは、なんだかとてもワクワクする気分だった。
畑が求めるもの
評判と名声を得たワイン評論家が、販売不振と借金で立ち行かなくなった実家のワイナリーを立て直すべく、はじめてのワイン造りに挑む映画だ。失敗すればワイン評論家としての名声も地に落ちるうえに、借金を返せなくて畑を売ることになる。
実際はどうなのかわからないが、映画の中でのフランス人たちの人間関係は、どんなに激しく議論を戦わせても、相手の人格を否定したり、ましてや暴力に訴えたりすることは決してない。流石に言論の自由を自分たちで勝ち取った国民だ。懐の深い精神性を感じる。最近はフランスでも極右政党が勢力を伸ばしつつあるようで心配だが、この映画に登場するフランス人は言論の自由を重んじる知的な人たちばかりだ。
ストーリーは坦々と進むので特筆すべきことはないが、広大な土地に葡萄畑が広がるブルゴーニュの映像がとても美しい。そして美しい自然は同時に厳しい自然でもある。そのことはワイナリーの職人が一番よく知っている。
葡萄畑は、日当たりや水はけなどの少しの違いで、出来るワインの質がまったく違ってくる。普通の畑は、それほどいいワインは出来ないが、それでも苦労する。いい畑は自然の恩恵をもたらしてくれるので、いいワインが出来る。主人公シャルリは子供のころ、祖父からそう聞かされていた。
隣のワイナリーで40年もワインを造りつづけているエディットは「畑が求めるものを与えなければならない、そして畑はさらに求めてくる」と語る。畑が求めるものが理解できない人にはワイン造りはできない。ワイン造りの要諦は葡萄造りにあるのだ。
日常的な静かなシーンの中で、ものづくりをする人間の才能や心構えやアイデア、或いは新しいことに挑戦する勇気などがうまく描かれており、ワインに詳しい人も詳しくない人も、どちらも楽しく鑑賞できる。私も詳しくないひとりだが、主人公が父親に飲ませていたワインのエチケットを見て、思わずのけぞってしまった。これは観てのお楽しみだ。
フランス語のタイトルは「Premiers Crus」だ。簡単に言うと一級酒という意味だが、ワインの場合はどの葡萄畑の葡萄かを表しているので、日本酒の一級酒とはだいぶ違うと思う。
日本酒が特級酒、一級酒、二級酒という風に格付けされて売られていたのは30年くらい前のことだ。いまはその格付けはなくなり、主に作り方の違いで純米酒や本醸造酒、精米の度合いで吟醸酒や大吟醸酒、味の違いで辛口と甘口、濃醇と淡麗などに区別されている。
「Premiers Crus」はこの映画ではどういうニュアンスなのだろうか。それぞれの単語の最後にsがついている理由もよくわからない。映画を観たソムリエやソムリエールの方々に聞いてみたいところである。
ワインを飲むシーンが沢山あって、楽しい映画である。登場人物がほとんどみんなワインの専門家だけに、グラスを傾けて色を見たり粘性を確かめたり、口に含んで空気を吸い込んでみたりする。何も食べずにただワインを飲むところがいい。どんな味がするんだろうと、観ているこちらも一緒にテイスティングしている気になる。
『ワインうんちく大好き愛好家』はハマる
新しい(いや、古代ローマの)ワイン、飲んでみたいです
やる気を失ってしまい、倒産寸前のワイナリーの立て直しを通じて、家族の絆とは何か?と言う事を描いた作品。
意外にすんなりと、シャルリがワイン造りに入っていくことには驚きです。しかも、これまでのやり方を止めて、全く新しい(って言うか、古代ローマに帰っている訳ですが)やり方を始めてすらいます。ここまで書いていて、そう言えば最近復活している日本酒の酒蔵も、杜氏制度を取りやめ、蔵元自ら醸造に乗り出すなどの新しい事を始めている所が多いということを思い出しました。お酒に関する事業の改革で、洋の東西問わず同じように、従来の方式に捕われないやり方をして成功する(こちらは映画ですが)というのは興味深いです。
頑固親父が更に伝統を守る形でワイン造りを頑張って、徐々にその頑固さが周囲に理解されていって、それと共に息子も娘も戻ってくるという話じゃないんですよねぇ。日本だと、そう言う感じに描くことの方がありそうですが、そうじゃない所が、日本とフランスの違いなのかな。ワイナリー経営者がやる気を失ってしまった結果、ワイナリーが潰れるというのは、意外にフランスでは多いことなのかもしれませんね。
いかにもフランスっぽいな、と思うのが、シャルリとブランシュの関係。あれって良いのか!物語も最終盤に、ブランシュが帰ってくる件は、その後のマレシャル家とモービュイソン家の関係も変わる予感がします。
シャルリの昔ながらの製法のワイン。日本に輸入されるワインに入っている酸化防止剤も少なそうですし(無使用ではない)、飲んでみたい気がしました。
融合
全26件中、21~26件目を表示