「ワイン版「夏子の酒」」ブルゴーニュで会いましょう 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
ワイン版「夏子の酒」
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ずいぶんと懐かしいたとえを出してしまったが、ワイン版「夏子の酒」とでも言いたくなるような感じのストーリー。実家を出たはずの息子(著名なワイン評論家)が、父親が営むワイナリーを立て直すために実家へ帰り、新しい(というより原点回帰)やり方で素晴らしいワインを作り出す、というハートウォーミング・ムービーだ。
ただ、この映画に関しては、テレビドラマ的というか漫画的なご都合主義が付いて回ってどうしても気になった。主人公はずいぶんとあっさり実家に戻ってくるし、葡萄を育てる七転八倒ぶりも実に甘い。シートを張って嵐から守るやり方こそ失敗に終わったものの、収穫時期は正確に判断できたし、なんだかんだで巧いこと失敗なくいい葡萄が作れてしまっているあたり、なんだか物足りない。それで結局一年目で素晴らしいと絶賛されるようなワインが作れてしまうというところにも、腑に落ちない部分が残った。
一番は、葡萄を育て、それを一級のワインに仕上げる、という作業の大変さやこだわりのようなものが、映画から感じられないところだろうか。ワイン造りの難しさ、奥深さ、そして感じる充実感と達成感、みたいなものがこの映画には決定的に不足していたように思った。その代わりに描かれるのが、幼馴染とのロマンスというのはあまりにも頼りないし、こういうところが実にテレビドラマ的で面白くない。頑固な父親との関係も中途半端だ。
ただこの映画のワインのテイスティングのシーンはよかった。テイスティングという視覚的には実に地味な作業を、とてもアグレッシブに撮影していて、映画で人々がワインを口に運ぶシーンは、なんだかとてもワクワクする気分だった。
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