「映画初心者に見せたら拷問?」エヴォリューション Minaさんの映画レビュー(感想・評価)
映画初心者に見せたら拷問?
これぞ"アート系映画"。セリフも少なく、説明不足…というか説明する気も無い作品は久しぶりに観た。ここまで振り切ると何だか意味不明すぎて逆に見入ってしまうが、意味不明であるという事に変わりはない。本作では"水"や"ヒトデ"が象徴的に描かれるが、本作における役割としては、まさに本編で言わんとしていることの象徴そのものである。「Evolution」とは進化という意味なのだが、本作で言う進化は登場する人間が幼い子供と女性しか出でこないという所から紐解いていく必要がある。人間は男女の性交によって受精し、新たな生命を得るが、その"男"という生物が出てこない。そう、この島で起きているのは女性だけで単為生殖をするという行為だ。男という生物を必要とせず、女だけで子孫が残せるという"進化"を遂げた人々を描いているのだ。時折描写される水中の映像は、赤ん坊が生まれる前に包まれている"羊水"を表したものであると考えるとそれぞれのシーンに意味がある様に思える。
一方でヒトデの繁殖方法はかなり特殊であり、体を自切(トカゲが自分で尻尾を切る事と同じ)する事で自らのクローン個体を製造する場合や、雌雄同体と言い、1つの個体で雄と雌の両方の機能を持って生殖をする生物であるのだ。まさに、この島で行われている事である。
これらから分かる様に、本作のジャンルこそどれに当てはまるか謎だが、「生殖」にまつわる話だと言う事は容易に見て取れる。
本当に観客に教える気がないのか、細かな説明が全く無いため、子供らの正体が何なのかが最後まで明かされない。彼らも単為生殖の過程で生まれたのか、よそから連れて来られたのか。劇中の台詞で、「本当のママじゃない」と言ったのはどちらの意味も取れる。ホルマリン漬けされた正体不明の亡骸が登場するが、やはり単為生殖は容易でなく、奇形で後に死亡したか死産となって生まれた子どもらの亡骸である事が考えられる。そうすれば、島にいる子どもらは"成功例"なのだろうか。彼らは可哀想にこの島の女性たちの"外部生殖器"という扱いであり、時が来ればその役割を担い、生んでは死ぬだけの生活の中で、主人公もいよいよその時が来るという時に、一人の看護師ステラが逃走の手助けをしてくれる。ステラという名前は"星"を意味する言葉だ。星は希望の明かりであるが、散々登場した星型の生物ヒトデでもある。…この様によく見ていればすべてが繋がっている様に感じる作品だ。ステラ以外の看護師が一切子どもらに興味を示さないのと対照的に、ステラは主人公を案ずるかのような態度を示す。恐らく死にゆくキリストを見守った聖母マリアの様な存在なのだろう。主人公が無事なのを確認したら元居た島に帰って行った様な描写があるが、実際にステラが実在していたのかも怪しくなってくる。
監督はかなり熱心に絵画を研究しており、本人も信者かは不明だが、非科学的な力や伝説をかなり踏襲している様に思える。本作を製作するに当たって、画家のダリの絵画からインスピレーションを受けた的な発言をしているが、おおよそ万人が共感する様な内容では無く、興行面を一切気にせず突き進んだ監督には拍手を送りたい。