「映画の魔法をまぶした金平糖の甘さと愛らしさ」ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
映画の魔法をまぶした金平糖の甘さと愛らしさ
エリザベス女王Ⅱがまだ若い娘時代、終戦と勝利を祝う記念の夜に、宮殿の外へ抜け出し、一人の女の子として夜の町を冒険する。そしてそこで知り合った青年と、身分を隠しながら距離を縮めていく。予告編では「ローマの休日」に例えられていたこの物語。確かに共通点がある。
ちなみに史実に基づいているとのことだが、どこまで史実に忠実かは分からないし、次第にそんなことはどうでもよくなってくる。この映画は、女王の若い頃の記録を紐解きたいのではなく、キュートなラブストーリーを描こうとしているのが歴然としているからだ。随所にちりばめられたユーモアは、映画の魔法がかけられたフィクションのそれ。史実にはこだわっていないのがわかるし、それで構わないと思う。
映画はとてもコミカルで、バックに流れるビッグバンドジャズの響きのように軽快だ。洒落が効いている、と言っても良い。映画のスタイルは全然違うのに、まるで50年代ハリウッドのロマンティック・コメディを観ているような気分にさえなる。コントみたいな強引なジョークも少なくないが、映画の魔法がきちんとかかっているので、洒落として成立している。実に好ましい。
映画は97分の短さで、描かれるエピソードもたった一夜の小さな冒険だ。それ以上は何もない。しかし、小粒で甘いキャンディのような愛らしさと懐かしさがある。食べ応えのある高級料理もいいが、こういう小粒なお菓子も映画に必要な栄養だ。
また、ヒロインを演じたサラ・ガドンがとにかくチャーミングだ。口元に特徴があるアヒル顔のファニーフェイスだが、愛嬌があって可愛らしい。彼女の輝きで、映画がますますチャーミングになる。てっきりイギリスの女優かと思ったら、カナダの女優らしい。
それにしても「クィーン」しかり、英国は王室を映画化にすることに極めて寛大だと思う。日本の皇室の裏側を史実に基づいて映画化・・・なんてまずないだろうに。