「男と男の敵味方を越えた友情に、胸が熱くなる」シネマ歌舞伎 歌舞伎NEXT 阿弖流為(アテルイ) 森のエテコウさんの映画レビュー(感想・評価)
男と男の敵味方を越えた友情に、胸が熱くなる
劇団☆新感線の同名舞台さながらに、歌舞伎NEXTと銘打たれたこちらも、息をのむほどのスリリングな展開。
シネマ歌舞伎としては、スーパー歌舞伎のヤマトタケルと双璧を成す傑作だ。
原作は明記されていないが、高橋克彦『火怨』を下敷きにしているなら、相当エンタメ寄りにアレンジされている。
一番大きな違いは、アラハバキという北の土着神を軸に据えて人物を描いているところだ。
対置されるのは帝という朝廷の神。
神と人、神と神、そして人と人。
人間は神の名のもとに義と大義に生きる。
正義と大義のせめぎあいの中に、ヒトの業と欲と道が描かれる。
敵と味方という運命の出会いをする阿弖流為と坂上田村麿呂。両者を演じる市川染五郎(現松本幸四郎、高麗屋)と中村勘九郎(中村屋)の胸熱な立回りはお見事!それぞれの大ミエの場面では、こちらが武者震いする程だ。
原作では、阿弖流為とそのブレインだった母礼(もれ)が、坂上田村麿呂の進言虚しく、大阪の地で斬首される場面で幕切れとなるが、この歌舞伎版では、阿弖流為が朝廷と北の地の和議を見守るカミとなる。
北上の大地には、今も阿弖流為の魂が宿っている、そんなロマンをかきたてられる、激熱な作品である!
追記:タイトル【男と男の敵味方を越えた友情に、胸が熱くなる】
の【友情】では言い足りない。
それは【矜持(プライド)】の方がしっくりくる。
ブライドとは、自己肯定のみならず、他者を肯定した上での自他肯定なのではないか。
兎に角、二人の心の交流が肝である。
時代が違えば、この二人はきっと親友であっただろうと再び胸が熱くなる。
追伸:坂上田村麿呂が創建した、京都の清水寺。
その有名な清水の舞台の麓に阿弖流為と母礼の石碑がひっそりと佇む。
清水の舞台は、祭られる観音(坂上田村麿呂は、病に伏せる妻の回復の為の生き血を求めてこの地に狩りに訪れ、修行僧に諭され寺を建立した、故に祭られる神は女神の観音という必然か)に能や神楽といった芸能を納めるところ。
そして、清水寺を擁する音羽山は、歌舞伎の音羽屋の由来ともなっている。
阿弖流為と坂上田村麿呂の物語は、歌舞伎により語られる宿命であったのかもしれない…