「子供たちを常識的に自由に育てる任務」はじまりへの旅 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
子供たちを常識的に自由に育てる任務
設定はユーモラスだが、中身やテーマ性は深い。
社会や文明から離れ、森の奥深くで暮らす父親と三男三女の子供たち。
完全に原始的な生活を送っているという訳ではないが(最低限の金は持ってるようだし、車もあり、時折最も近くの店などにも顔を出す)、ほぼほぼ自然の中で自給自足。
父親独自の教育方で、身心共にアスリート並みに鍛えられ、一番上の長男は多くの著名大学に合格するほどで、一番下の妹は合衆国憲法をスラスラ暗記し哲学を唱えられる。
スゲーぞ、この父親…!
そんなある日、入院中だった母親が亡くなり、葬儀に出る為、父親は久し振りに、子供たちにとっては初めて“外の世界”へ赴く事になるのだが…。
見てて面白いのは、自分の中でも考えや価値観がぶつかり合う。
そもそも、何故こんな暮らしを…?
堕落しきった社会や文明を嫌悪し、子供たちを利発で逞しく育てる為。
その甲斐あって、子供たちは同じ年頃より一般以上の頭脳や肉体に。
教育は確かに見事なものだ。
しかし、社会や他人と交わった時の常識は…?
“外の世界”へやって来て、当然の如くカルチャー・ギャップ。
彼らは、何も知らない。笑いを誘うが、シュールでちょっとオカシイ。
立ち寄った伯母の家はピント外れの会話。
“食料を救え”という任務は、スーパーでの盗み。
初めて会話を交わした女の子に結婚の申し込み。
これが独自の教育方針に基づく子供たちの育て方かと思うと、やはり怪訝してしまう。
さらには、子供たちの安全性。
森の中での生活中、山登りで骨折。
体中は勿論アザや怪我だらけ。
終盤、ある事故が…。
父親の教育方は正しかったのか。
この子供たちの教育方は妻と決めたものなのだが…、
入院していた妻は精神を病み、その原因。子供たちへの悪影響。
独自の教育方は別に全否定するようなものではない。
しかし、長男は大学に行きたがってる。他の子供たちも社会や文明に憧れを抱き始めてる。
“普通”の社会や文明を批判しつつ、子供たちの将来の事や安全性、独善的な父親の教育方をチクリと刺しつつ、子供たちをどう成長させたか。
どちらか一方を肯定否定するのではなく、両者の善し悪しがバランスよく描かれている。
まあ、最後やった事は幾ら妻の願いだからと言ってもちょっと常軌を逸してるし、“いい方向”へ持っていった気もするが…、
笑いとほろ苦さ、深いテーマ性に考えさせられ、温かな気持ちにもなる。