「嗚咽が…」はじまりへの旅 ミーノさんの映画レビュー(感想・評価)
嗚咽が…
人里離れた山の中で暮らす、父親と子供6人。学校には通わせず、狩猟して生肉を食べたり、崖を登って滝行したり、けったいなスパルタ教育をする親父かと思ったら、『カラマーゾフの兄弟』や私もいつか読もうと思ってまだ手を出せていないジャレド・ダイヤモンドの『銃・病原菌・鉄』や物理学の本など、書物を通じて子供を教育し、クリスマスの代わりに人権主義者のノーム・チョムスキーの誕生日を祝って、物質主義、資本主義の問題点を教え、教室で学ぶ以上の知識を子供に与えている。それが、入院していた母親の死によって、祖父母の家で行われる葬式に向かうことに。
父親は確かに変わっているけど、それもこれも全て子供のため、妻と一緒に理想の教育を考えて実行していること。途中で立ち寄った、自分と正反対の妹夫婦の教育方針(というか普通の家庭教育)に対して強く否定するわけではなく、子供の反抗に対してもきちんと耳を傾ける。実際、妹夫婦の息子達よりも教育効果が上がっていることは誰の目にも明らか。
6人の子どもと力を合わせて愛する妻を失った悲しみを乗り越えていた、のに。祖父母の家で、それが綻び始めた。
妻と話し合って築き上げたこの教育方針は子供を傷つけることだったのではないか、と気づいて、とても辛い決断をする。それは自分自身の生き方の否定にも繋がることである。愛する人達と信念の両方を失って、生き直す主人公。
ヴィゴ・モーテンセンは50年代生まれなので、子供達の年齢からするともう少し若い俳優でも良さそうだけど、彼でなければならなかったんだろう。
アカデミー賞授賞式で彼の隣にいた、太ったロン毛の若者が息子だそうで、彼自身の教育方針に主人公と通じるものがあったのかもしれないと思った。