「親子の絆は教育でつくるものではない」はじまりへの旅 月野沙漠さんの映画レビュー(感想・評価)
親子の絆は教育でつくるものではない
どうも予告映像はミスリードを誘おうとしてるのか、コメディ映画っぽい印象を受けたけど、結構真面目なテーマを扱った見応えある作品だった。
森では頼りになる長男のボウが町で女の子に会うと硬直してしまうのが、とても微笑ましかった。特にカーキャンプ場でのメアリとのやり取りは笑えた。
そんな風に素朴に育った子供たちだが、生きるための知識と教養は恐ろしいほど植え付けられている。
俗世間から切り離される一方で、性のことや近親の自殺など普通は子供には包み隠す様なことを教えられてきた子供と、それらをオブラートに包んで教えず、逆に俗世間にはまみれて育った義妹夫婦の子供との対比が面白い。スニーカーのメーカーも知らず、TVゲームも触った事がないが、憲法や生物学や物理学など大学生並みに知識を備え格闘術まで身につけた子供と、普通の一般的な子供。主人公の教育と義妹夫婦の教育はどちらが子供にとって良いのだろう?と考えさせられた。
ただ、主人公の教育で現金とは無縁の生活ゆえの、絶対に擁護できない部分があって、主人公の教育方針を正当化するのは分が悪い。それは義父との子供たちの教育について議論した際に露呈した。主人公もそのおかしさに気づいてはいたろうが、資本主義への嫌悪故に見逃していたのだろうね。義父にそこを追求されると何も言い返せなかった。
あまりに行き過ぎた自然主義はカルト宗教に近く、様々な出来事を通してベンは自分の考えの至らなさを受け止め、そして父として成長します。親子の絆も感動的です。観た後、爽快な気持ちになれました。
ただ、妻のレスリーの自殺の原因がハッキリとしないのが釈然としない。子供たちの母を慕う気持ちと、子供たちを置いてあの世へ旅立った母との気持ちの差に乖離を感じずにはいられなかった。
そしてこの映画を観れば、健全な人間を育てるには教育勅語が必要とか言ってる人間の滑稽さに気づけるはずです。