「テーマには共鳴するが、映画としては少し頼りない。」ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
テーマには共鳴するが、映画としては少し頼りない。
LGBTに対する世間の目はまだまだ冷たい。2000年代初頭に、アメリカの保守的な地域において、同性パートナーに平等な権利を求める行動を起こした人々の物語。
「レズビアンだと知られたら出世は望めない」と遠く離れた土地に家を買い、男性優位の警察という組織で男性以上に体を張るジュリアン・ムーアの姿は、差別や偏見の中で妥協して生きる姿でもあるし、自分なりに折り合いをつけた生き方だ。既に、平等を手に入れるために苦労と努力をしている人物である。LGBTに対するが、法律や条例の中ではなく、日常にこそ根付いていることを示している。
ローレルとステイシーは、自分たちの関係を人に祝福させようなんてことは望んでいないし、認めさせようとも思っていない。だから、結婚が出来ないのであれば同性パートナー条例の適用で十分だし、同性婚への活動にはきわめて消極的。彼女たちが望んだのは、ごく当たり前にそこにあるはずの平等であって、当然の権利を手に入れるために努力と労力を強いられるというのは、理不尽なものだなぁと思い、実話であるという事実の力も手伝って病と制度に闘う姿は感動的ではあった。
もちろん、そのようにLGBTが世の中に受け入れられ理解されていくことを目指すその一つの過程としての物語として見られるものもあるけれども、それ以上に、個人的にはマイケル・シャノンの存在が活き活きとしており、同僚でありバディである仕事上のパートナーに対する愛情と献身の物語と捉えても良かったと思う。実際、この映画の影の主人公は完全にマイケル・シャノンで、当事者ではないニュートラルな立場にいるシャノンが一番物語の中で行動を起こしている、というのは気に入った部分。
ただこの作品、物語の視点がムーア→ペイジ→シャノンという風に不安定にスライドしているかのようで落ち着かず、全体的に見ても、伝えたい想いが強すぎて、映画としてのストーリーがまとまり切っていないような気もした。せめて、映画の「目」となる人物だけはきちんと定めてくれた方が良かった。
映画が紡ぐメッセージに共感し共鳴することと、映画の出来とは別の話で、テーマは感動的ではあるものの、映画単品として捉えると、やや骨格の頼りなさを感じてしまった。