「美しくも現実を映し出す力強い映画」ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気 こと☆さんの映画レビュー(感想・評価)
美しくも現実を映し出す力強い映画
21世紀初頭、米国ニュージャージーの実話に基づく映画。刑事として23年間務めたローレンは、若い女性ステイシーと出会い、恋に落ちていく。ローレンはステイシーとの関係性が周囲にバレるのを恐れながらも、やがて二人はマイホームを購入し、犬を飼い、ドメスティック・パートナーとなった。「家、犬、パートナー」という共通の夢が叶おうとした時、ローレンが末期癌を患っており、余命僅かであることが発覚した。
ローレンは死を恐れなかったが、唯一の悲願は、自分の公務員としての遺族年金受給者をステイシーに指定することだった。しかし保守的な郡の委員会はそれを認めようとしなかった。同僚の協力によって、ローレンの物語は新聞に載り、そこで同性婚法制化を求める同性愛権利促進団体が助力を申し出た。事態が次第に社会運動化していき、それに対してステイシーは疑問に思っていたが、愛する人のために、そして後世に平等の種を残すために、ローレンは闘病生活の中で苦しみながらも運動に参加した。色々な人の努力の末、委員会は嫌々ながらもやっと遺族年金受給者をステイシーに指定することを認め、運動は成功した。
その後、ローレンは休職のまま警部補に抜擢され、光栄の死を遂げた。この勇気の物語は、やがて後の同性婚法制化の動きに繋がった。
話の展開はやや予定調和な感じがするが、実話なのであまりドラマティックに改変できないからそこは仕方が無いと思う。全体的に、愛の美しさと人間の強さに心を打たれる映画である。苦しみながらも闘病し続けるローレン、パートナーを失う絶望で涙に暮れながらも強かに愛を信じ、差別に立ち向かうステイシーの姿を見ると、思わず涙ぐむ。
ただ、「愛の美しさと強かさ」以外にも、幾つか考えさせられるポイントがあった。例えば、同性愛者権利促進運動団体の助力と執拗な抗議活動が無ければ、事態が成功がそもそも望めなかったということ。ローレンの年金受給者という一見して個人的なことなのだが、「個人的なことは政治的なことである」という名言を証明する絶好の事例である。この実話は2002年前後に起こったことなのだが、現在の日本や台湾のことを思うと、残念ながら2016年の日本と台湾は2002年のニュージャージーにすら及ばない。権利促進の政治的な活動を嫌い、いつまでも「理解促進」に留まる日本のLGBT事情を思えば、自分を取り巻く現実に対してより一層絶望を感じる。