「唄う魚」神様メール 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
唄う魚
掌のアイススケートのシーンが美しくて涙がこぼれた。
「人生は冷たくて硬いスケート場のようだ」と思っていた女性。スケートは転ぶと痛い。転んでばかりかもしれない。
でも、こんなにも美しい。
状況を変えることが奇跡なのではなく、今が「美しい」と気付けることが奇跡なんだなあと。
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主人公のエアが出会った6人。皆、寂しそうな人々(疲れたサラリーマン、窃視好きの男、ツバメを漁る女、代理ミュンヒハウゼンの子など)だ。けれどもエアは、彼らの内面を引き出す。その内面は豊かな音楽となって流れ出す。彼ら自身も気付いていなかった豊穣な世界。
そして、踊る掌、恋するゴリラ、唄う魚など、各登場人物を象徴するようなファンタジーな面々が映画を彩どる。
ファンタジーだから美しいのではなく、あなたの「今」もきっと美しい筈ですよ、気付いていないだけかもしれませんよ、それを伝えたくて心血注いで作った映画のような気がする。
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雨に打たれて、クソオヤジのように「ついてない」と顔をしかめるか、娘のエアのように「恵みの雨だなあ」という風にニッコリ微笑むか。気の持ちようなのかもしれない。小さい差なのかもしれない。でも、その小さい差が、何かの分かれ目なのかもしれない。
ラスト、クソオヤジは「突破口」を探して、洗濯機を覗き続ける。でも「突破口」はそんな所にはない。クソオヤジが気付かないだけで、きっと、もっと近くにある。
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追記1:他のレビュアーさんもお書きになっているが、「宗教とは?」という視点だけで観ちゃうともったいない映画のような気がするなあ。
追記2:神様を破天荒に描いているが、新約聖書マタイ伝(思い悩んだからといって、寿命をわずかでも延ばすことができようか)を思いおこさせる映画でもあったなあ。