「監督からの「分かりやすい優しい」メール。」神様メール しんざんさんの映画レビュー(感想・評価)
監督からの「分かりやすい優しい」メール。
生涯ベスト、という映画の評価や考えることはしたことがない。生涯で好きな映画は変わるからだ。というのはあまのじゃくなオレでなくてもそうだと思う。例えば「ロッキー」が好きだったころはあっても、今では「ロッキー4」のほうが好きなのだが、それは、オレがいつ、どういう状況で観たか、ということのほうが、映画の質よりも大事だと思っているからだ。
「ロッキー」があったからこそ、スタローンはスターになったが、「ロッキー4」があったからこそ「オレの」スターになった。
映画とはそういうものだ。
そんなオレでも、いまだかつてない映画体験をした1本がある。質とか、どういう状況とか一切関係なく、オレのチンケな脳みそを揺らして、なだめて、覚醒させた1本がある。
「ミスターノーバディ」
ジャコ・バン・ドルマルの名前はオレの脳みそに刻み込まれてしまった。その彼の最新作がいよいよ公開される(というよりひっそりか)という。
観るのが怖い。うれしすぎて怖い。だが、あれ以上のモノは出てきやしないのでは、という不安もある。
気付けば、出張帰りの新横浜から直接ららぽーと横浜へ。
「神様メール」
神様批判等のくだりはここでは触れない。分からないし。
というより、そんな見方をしては、この映画の「陽気さ」「優しさ」「美しさ」を斜に構えてしまって見損なってはもったいない限りだ。
前作「ミスターノーバディ」は、人生の分岐点ですべての選択肢を実践した男が、選べる可能性こそ、「人生の豊かさ」、「人の豊かさ」と知った物語とするならば、今回は選択を奪われた人たちの、生き様をどう締めくくるか、という物語。
締めくくる、というのは、神様が使うPCからメールで余命を宣告された、というものだが、その設定はどうでもよくて、締めくくる、という状況を強制的に与えられたら何をするか、という、まあ、よくある余命もの、といってもいい。
そう、前作とは、設定が違えど、これもまた、人生賛歌。
人は重大な局面に直面すると、心のままに、行動することができるか?それぞれの登場人物を描く、ある種のオムニバスもの、と言ってもいいだろう。
それを、「とんでもない」美しい映像で描くのだから、たまらない。
特に、余命を知って保険屋から「狙撃者」になった男のエピソードが美しい。特に鏡に映った自分との抱擁。(書いても意味わからんよな)には、一瞬にして本気で涙がこぼれてしまった。
また登場人物それぞれの心の中にある「音楽」がこれまた、美しい。クラシックに疎いオレでも、なんとその人物とシンクロした選曲なのか、と息をのむほど。
前作「ミスターノーバディ」が役者、映像、音楽、脚本、演出とパーフェクトだったのに対して、今回は徹底してコメディ色を強め、前作よりも分かりやすく俺たちを応援する。
分かりやすい、というのが今回最もドルマルが狙った点なのかもしれない。
神様批判、風刺、というには、鑑賞後、こちらの心が優しくなりすぎている。
追記
次は何年待たされるのだろうか。楽しみで、不安でたまらない。