「孤独な献身と、潔い結末。」或る終焉 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
孤独な献身と、潔い結末。
言葉数の少ない映画である。言葉以上に身体が多くを物語るこの作品には、終末期患者に寄り添う男の孤独な献身が描かれている。
病で不自由になった生活と精神を補助するために、ティム・ロス演じる看護師はまさしく献身的なケアを患者たちに施していく。家族よりも密接な関係を築く必要があるし、プライベートな領域にまで入り込まなければならない。その有様の難しさと過酷さをティム・ロスとミシェル・フランコ監督は、ただただ看護の風景をまっすぐ見つめることで淡々と描き出していく。そして同時に、ロス演じる男の中に蓄積されていく孤独と葛藤を浮かび上がらせており、言葉に頼らない演出は英断だったと思う
なぜ、彼はこんなにも過酷な仕事をするのか?ふとこちらがそう思った先に物語は展開し、彼の過去が寡黙に姿を見せ始める。多くは語られない。しかし不十分ということはない。大きく空いた余白を埋めるようにティム・ロスの演技が観る側の感受性を刺激する。
おそらく男にとって、終末期患者の在宅ケアという過酷な労働は、ある種の贖罪であり、懺悔のようなものだったのではないかと思う。男はまるで、罪を償うように身を捧げ、身を削り、命に寄り添っているように見える。そして家族とのふれあいのシーンの危うさから、彼が背負う十字架の大きさを垣間見る。かつて奪った(「奪われた」ではない)小さな命という大きすぎる悲劇と罪に抗えずに散った家族のあまりにも心許ない愛情の交流。彼の過去の葛藤や現在の孤独の、その源流が見えたと思うや否や、物語は更に男を追い込み、彼に同じ罪を重ねて背負わせる。重い内容だが、必ず誰の身にも訪れる死への向き合い方がとても真摯で、目が離せない。
ラストシーンでは、本当に息が止まった。映画を観ながら、男の現在と過去はよく見えるが未来だけはなかなか見えないと感じていたのだが、最後の最後、彼の未来を微かに感じ始めた頃に、そんな彼の未来をばっさりと斬り捨てるような幕切れを見せる。カタルシスさえも拒絶するエンディングは潔くていっそ胸がすく。あのまま、彼の未来が終わってしまっても苦しい結末だが、もしも立場が逆転して、彼に与えられた未来が、死を待つ「終末期」だったとしたら?なんて考えたらますます息が苦しくなった。