劇場公開日 2016年7月1日

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「故郷を離れる気持ちは世界共通」ブルックリン 森泉涼一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0故郷を離れる気持ちは世界共通

2016年7月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

1950年代、アイルランドの小さな町に住むエイリシュ(シアーシャ・ローナン)という一人の女性が初めて親元を離れ、初めて異国の地で働き、初めて恋をする。彼女のラブロマンスが大半を占める本作だが、時代背景に付随したアイルランドの小さな町で暮らしている若者の将来を案じた渡米という冒頭の出来事に関しては、恋愛とはかけ離れた社会的問題が露わになる。
母国を去り異国の地で第二の人生をスタート・・・。現代の日本で将来の選択肢が幾程ある若い世代と重ねるとイメージしにくいかもしれないが、単純に上京してくる時の自分自身と重ねるだけでも本作の魅力を存分に味わえる。
では、一方は国から国の横断、もう一方は国内の上京と根本的なスタートが違う中でどこに魅力を感じてくるのか。それは彼女がブルックリンで生活をスタートさせてからジワジワ感じてくる。友人も知り合いもゼロに等しい右も左も分からない世界で挫折し、這い上がり、自立する力を得ていく。ついには恋人までつくり、いつのまにか異国の地に染まっている彼女が生き生きとスクリーンに映えている。これらは時代背景や世代問わず世界共通で感じることのできる本作最大の魅力であるだろう。
1950年代、アイルランドとアメリカでは少なからず差別的な批判があったであろうと思われるが、その描写はほとんど描かれていない。だが実際にアメリカへ入国する際の厳しい検査等の少ない描写で差別的な要素はあったであろうと予想ができる。これも面白いところであえて見せない描写が彼女の精神的強さを物語っている。自分自身と重ねて見れるところもあれば、見習うべき強さも兼ね備えている才色兼備の女性だ。
彼女の恋愛パートは後半にたっぷり待っているが、ここはラブロマンス王道路線まっしぐらというぐらい陳腐な物語。だが、ブルックリンに染まった彼女が母国へ帰るシーンがあるが、ここで友人達と出会った時の立ち振る舞いや映え方は本作で一番美しい彼女を見れるシーンかもしれない。「アイルランド=緑」という代名詞が陰ながら強調されている本作で、母国の色とブルックリンの流行りの色を取り入れた鮮やかな服に身を包む彼女は自然と突出している存在となっている。

森泉涼一